中途向け求人広告とデータ活用に関する話題を前編・後編に分けて取り上げています。前編では、現状のデータ活用の問題点を取り上げました。後編では、ではデータは活かせないのか、活かすとしたらどのような手法が考えられるのかを議論します。
目次
データは最低条件の設定に活用せよ。
ざっと前編を振り返ります。前編では、主として、広告の訴求点をデータ活用で見つけるのは、とても筋が通っているように見えて、少なくとも現状では無理があることを指摘しました。まして「効果の出る文言」を拾い集めようとすると、誤った方向に進むことも述べています。そうした問題が起こる要因として、データ不足、内容領域専門家の軽視、求人広告への理解不足を取り上げています。
では、データが活かせないかと問われれば、まったくそんなことはないと考えています。むしろ積極的に活かすべき。問題は活かし方です。私は中途向け求人広告のデータは、まず「求人広告の足切り」に活かすべきだと考えています。つまり、例えば、「最低下限の給与設定」などにデータを用いるべきだと主張するのです。
データ活用の話をしながら、最初に個人的な感覚値を述べるのも恐縮なのですが、求人広告は人材採用について非常に大きな力を発揮するものの、一方で、求人の呼びかけとして与えられる効力は全体の15%程度、マックスでも30%と捉えています。要するに、求人広告は人材採用のツールの一つで、企業規模などによって変化しますが、どんなに巧みに作成しても、最大で30%としか採用の成功の確率を上げられないということです(広告を打つだけで30%も確率を上げられなんてものすごい力だ、と個人的には思っています)。
採用を左右する大前提として、企業規模、事業内容、知名度などの企業力があり、採用力のベースととも言えます。これ以外の要因で、もっとも大きいのは「条件」ではないでしょうか。例えば、東京都内でデータアナリストの経験者を月給18万円で募集しようとする企業があったとします。感覚的にもこれは無理だとわかるでしょう。これはもはや、求人広告の書き方云々ではありません。いちいちデータを示さなくても、無理なものは無理だとはっきり認識できるはずです。
真の意味での人材コンサルティングにもつながる。
実は、世の中には、先に示したように「勤務地:東京、職種:データアナリスト(経験者)、月給18万円」みたいな条件で求人広告の出稿に挑もうとする例がけっこうあります。「うまいことコピーを作って悪条件を跳ね返してください」みたいなこと言われ期待をかけてくれることはありがたいのですが、もちろん、最大限の工夫はしますが、9割9分出すだけ無駄に終わります。さらには結果が出なかったことについて、営業にクレームが行き、制作者の力量に不満をぶつけられることがあります。
営業が無理な提案をした可能性があるのでなんとも言えないのですが、誰の幸せにもなっていません。関係者全員が不幸になっています。一応、媒体社の売上にはなるのですが、信用は落ちます。私は、こういう無理のある求人を見ながら、データで最低条件を示せないものかと思っていました。「勤務地、職種、経験の有無、福利厚生の充実、残業時間、求人日数などから最低下限は月給30万円、1万円上がることに、採用の可能性が5%アップします」などと示せたらいかがでしょう。
感覚でしか話せなかったことがデータで示せるようになり、信用力と説得力が増します。これまでは「ちょっと給与が低いです。厳しいです」と感覚的に言えなかったのに、上記のようにデータを提示するのだから、信頼力とセット力が違います。もし無理だと言っていることに対して押し切って出稿した場合は、結果に対して納得感を持てるでしょう。
何より、採用の成功に向けて、的確な措置を取れるようになります。仮に「そんな給与は出せない」となったら、条件を緩めるか、出稿をあきらめるかの判断ができます。場合によっては「現状では、ピッタリの人材の採用は困難ですが、まずはこの部分をやってもらえる人材を採用して、売上UPに貢献してもらいましょう。その上で、組織体制が整ったら、この人材を狙いましょう」などと、真の意味でもコンサル的な動きもできます。データを活用してヒットする文言を探すより、よほど価値が高いはずです。
外れ値を探ると面白い発見があるかもしれない。
データを見ていると、必ずと言って良いほど「外れ値」が存在します。切り捨てても良いのですが、なぜこの条件でこの職種の人材が採用できたのか、面白い発見があるような気がします。給料はすこぶる悪いが、立ち上げ1年目のスタートアップでロマンがあったりストックオプションが期待できたり、あるいは応募者がUターン希望で他に選択肢がなかったりということも考えられます。もしかしたら、採用はしたけどまったく別の職種と条件で採用したという話が出てくるかもしれません。
いずれにせよ、データを見ているだけでは気づけないことが多くあります。当該企業に詳しくヒアリングするのが良いでしょう。といっても、ほとんど興味本位なので、データ活用の観点からは単に切り捨てたほうが良いかもしれません。特に、詳しくヒアリングできない場合は、要注意です。外れ値を見て「18万円でデータアナリストの経験者が採用できた例がある」「この求人広告こそが至高の例だ」となってしまいかねませんからね。
データ活用で求人広告のフォーマット(下書き・ベース)を作成する。
もう一つ、友好なデータ活用として考えられるのは、コピーの下書きまたはフォーマットやベースの作成でしょう。要するに土台を作っておくのです。以前に本サイトでもご紹介しましたが、例えば、求人広告でもっとも目立つPRスペースのコピーとして、以下のようなフォーマットを複数、用意します。
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同様のフォーマットをキャッチコピー、仕事内容、応募資格など、各項目欄のフォーマットを職種別などで複数、用意しておきます。フォーマットがあることで、制作のスピードが変わりますし、取材の仕方も変わるでしょう。不明な部分を聞いていく感覚になるので、的確でスピーディな取材になるはずです。
現状、これと似たようなことを、一部の企業がデザインページでは行っています。複数のフォーマットを用意し、希望や応募内容に即したデザインをあてがうのです。ただ、コピーについてははっきりとしたフォーマットがないので、作成することが望ましいのではないでしょうか。
フォーマットだと同じになるという批判は当てはまらない。
フォーマットの作成は、基本的に人(内容領域専門家)の手で行うことになると考えられます。ただ、人の手だけでは結局、経験と勘に頼ることになるので、データを活用することで、より効果の高いフォーマットが作成可能となるのです。現在は、ChatGPTなど、優れた生成系AIがあるので、AIがベースを作成し、内容領域専門家が改良を加えることになるでしょうか。
実は私は、こうしたフォーマットを10年前に自力で作成し、同僚にも共有していました。求人広告はクリエイティブだと信じて疑わない一部の人からはあまり評価されませんでしたが、その人たちも結局、「自分の型」を持っており、各人で書きやすいフォーマットを使っているに過ぎません。フォーマットはその人たちの型も取り入れながら作成したので、批判はあまり当てはまらないと感じていました。
10年前に作成したならもういらないじゃないかという意見もあると思いますが、さすがに古くなっていますし、優れた生成系AIも出てきたところなので、一度大きくリニューアルしたいと考えています。ChatGPTは何度か使用すると、だいたいいつも同じパターンの文章を返してきます。フォーマットを作るのは得意だと考えられますので、試してみたいという思いもあります。
一方で、この方式だと求人広告がすべて同じになるという反論もあると考えられますが、フォーマットが同じでも内容が異なれば同じとはならないはずです(それをいうならデザインも同じはずで、なぜコピーだとだめなのかが不明ではあるのですが)。また、上記のコピーを例にすると、3ブロックあり、ブロックごとのフォーマットを5つ用意すると、組み合わせは合計で5^3=125通り。さらにブロックの順番を変えて別のものとみなす場合は5^6=15,625通りになります(あっていますよね)。ブロックごとのフォーマットをそれぞれ6種類にする、ブロック数を2のものと4ものを用意するなどとすれば、さらにパターンは増えます。同じようになることを避けることできます。一方で、品質、効率性は維持されるので、フォーマットの作成はかなり有効な手段だと考えられます。
まとめ
求人広告のデータ活用について意見を述べました。最低条件の設定、フォーマットの作成、いずれも非常に有用だと考えます。一方で、個人の力で作り上げるのは困難ですので、一大プロジェクトとして実施したいところです。データ活用やHRテクノロジーに知見のある方、ぜひ力を合わせましょう!(笑)