【コラム】求人広告の暗黙知。表に出ないが、有用な制作テクニック

求人広告は暗黙知の多い分野の一つだと思います。暗黙知とは個人の経験や勘などに基づく知識で、個々人が保有していて体系化されていない知識を指します。対になる概念が形式知で、個人の持つ知識が言葉になったもので、ノウハウなどが相応します。世の中に出ているノウハウは、暗黙知のほんの一部が言語化されたものに過ぎません。暗黙知のほうが圧倒的に多いため、ノウハウ通りやってもうまくいかないのはある意味で当たり前。ノウハウになっていないノウハウのほうが大量にあるからです。仕事の領域でもほとんどの技術が暗黙知のままにされており、わかりやすい例を挙げるなら、製造業の職人の技が最たるもので、これと似たような状況に置かれているのが求人広告です。

求人広告は、コピーライターやデザイナー、ディレクター、営業担当など、制作に携わった人が相当数いるのも関わらず、暗黙知が形式知化されたことはほとんどないと言っていいほどありません。一方、「この言葉を使うと応募が増える」「1行は●文字まで」「キャッチーな言葉はここに配置したら良い」など、Webを中心にデータに基づくノウハウは増えつつあります。それはそれでいいのですが(私も積極活用していますが)、そのノウハウはWebに蓄積されたデータを基に表出された知識に過ぎないことを忘れてはならないでしょう。つまり、制作に携わった者の暗黙知がほとんどまったく反映されておらず、バランスが欠けているのです。それにも関わらず、制作者の側でもバランスの欠いたノウハウに引きずられ、全体として非常にバランスの欠いた求人広告を作成してしまうことが時としてあります。本人もどこかおかしいと感じているようですが、自分の勘や経験知、すなわち暗黙知よりデータに基づくノウハウのみを信用してしまっているのです。バランスに欠いています。

こうした状況を打破するために立ち上げたのが、当サイト「中途採用の達人」であり「求人広告コピーライターズクラブ(KCC)」です。個人の持つ暗黙知を形式知化すると同時に世の中に出し、加えて個人の暗黙知だけでは限界があるので、複数人の持つ暗黙知を形式知にしようという試みを行っています。ところで、暗黙知を形式知化することの重要性に気付いたのは、世界的経営者、野中郁次郎氏の「知識創造理論(SECIモデル)」を知った以降のことです。それまでも、求人広告の制作ノウハウは必要だと感じていましたが、ノウハウと言えばデータを見ることで、それもどちらかというと小手先のテクニックが多かったので、違和感を覚えていました。それで本サイトやKCCを立ち上げ、知識創造理論を知り、自分自身の行っていること、行いたいことに気付いた次第です。

求人広告は面白いもので、見る人が見れば、応募が来る求人広告かどうか見抜けます。手慣れたコピーライターなら、会社概要と職名を聞いてだけで、なんとなくどういう求人広告を作ればいいか想像がつきます(その想像のままに作成することはありません。取材してコンセプトを練ります。一応念のため)。こうしたものの背景には必ず暗黙知がありますので、形式知化できればと思います。そのためには、野中氏は「知的コンバット」が必要だと言っていますが、そうしたことも実行できればと考えています。また、求人広告に関するデータ活用も現状は浅い段階にとどまっています。本格着手には障壁もあると思いますが、この分野の研究が進めば、とても面白いことになると感じています。

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