働き方改革とホワイト企業と求人広告(前編)

多様な働き方の実現や労働力不足の解消に向け「働き方改革関連法案」が2019年4月1日から順次施行されました。これに先立ち、求人広告でもいかに働きやすいか、就業環境がどれだけ優れているかが誌面を賑わすようになりました。もっとも、それ以前から、ブラック企業という言葉が飛び交う中で、自社の「ホワイトさ」を強調することが増えています。働き方改革はその動きに拍車をかけたと言っていいでしょう。今回は、働き方改革が求人広告にどのような影響を与えているかをはじめ、優良さを表す一つの指標としてホワイトさについて新たな考えや傾向、取り組みが生まれてきていますので、今後の予測などを交えながらご紹介したいと思います。

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現在の求人広告の潮流は自社のホワイトさを強調すること

ここ7~8年で、求人広告に一つの大きな傾向が表れました。それは、自社がいかにホワイトであるかのPRです。具体的文言に落とし込むと、「残業月20時間以内」「年間休日120日以上」「残業なし」はホワイトさの一つの目安であり、求人広告のメインのテーマとするかは別にして、もし当てはまるのなら、まず明記します。このほか、例えば「定着率の高さ」も重要な指標です。定着率は9割を超えると明記することが多く、社員が長く働く会社なら働きやすいだろう、すなわち、ホワイト企業なのだろうという理論です。実際、社員が定着するには理由がありますので、企業のホワイトさを類推させるには十分な事実と言えるでしょう。

こうした傾向が強まる中で出てきたのが「働き方改革」です。国によって過重労働がはっきりと否定され、残業時間を削減するよう働きかけています。現在では、残業が少ないのは良い企業というよりは、さらに踏み込んで残業は少なくて当たり前、月20時間を超えるなんてとんでもないという見方に半ば変わってきているところがあります。もはや、好む好まないに関わらず残業のある企業は、採用上の競合他社に勝つことはできない、つまり採用は困難であると考えさせられる状況に陥っています(ただし、残業のあるなしに関わらず、採用を成功させる方法はあります。残業を推奨するわけではありませんが、一応念のため)。

働き方改革は多様性が一つの大きなキーワードですので、時短勤務、産休育休の取得・復帰実績、女性の活躍、テレワークなども求人広告を賑わすことになりました。このうち、テレワークは求人広告で明記するのはごく一部に限られています。導入している企業が限られていることに加え、入社したての新人にテレワークを認めるのには戸惑いがある企業が多いようです。

なお、テレワーク=在宅勤務と捉える向きがあるようですが、テレ(tele)は「遠く」を意味する英語の接頭語で、オフィスから離れた場所で仕事をすることを意味します。在宅はもちろん、喫茶店やサテライトオフィス、コワーキングスペースなどで勤務することを含みます。テレワークについては別途、詳述いたします。

訴求点が収入からワークライフバランスへ変遷

求人広告は仕事や会社から時代を写す一つの鏡です。求人広告で打ち出されていることから、仕事や会社に何が求められているかを見ることができます。そうした観点から、求人広告の流れを知り、より時代に即した対応をするためにも、「ホワイトさ」が強調される以前は、何が大きな訴求点となっていたのかを振り返ってみたいと思います。

今から一昔前、10年ほど前を考えた時、当時からホワイトさを強調している企業は少なからずありましたが、その一方で、大きく求人広告を賑わせていたのが「収入の高さ」でした。「年収1000万円」の文言を何度書いたかわかりません。少なくとも5~6年の間は収入をメインの訴求とした求人広告はかなりの数出稿されました。

しかし、「ブラック企業」が激しく喧伝されるようになり、収入の良い会社は残業が多く休日が少ないという、ある種「常識的な」考えのもと徐々に敬遠されていくことになります。「年収1000万円などと書いては求職者に変に勘ぐられるのではないか」などという懸念も出始め、一時の勢いは完全になくしてしまいます。このころから「ワークライフバランス」が人口に膾炙するようになり、求人広告でも頻繁に見かけるようになりました。

収入をメインとした訴求が減っていく過程で「決してブラック企業ではない、それどころか残業もないし休日も多いが、年収1000万円にいく」という企業もあったのですが、潮流となることはありませんでした。実態とかけ離れているので自重したのか、そうした企業が少ないのか、単に真実と受け取ってもらえなかったのかは、サンプルが少なく判断が難しいところです。

顧客とのやり取りでは「今は給料より、残業が少ないことや休みが多いことのほうが重要だよね。ワークライフバランス重視にしたほうが、今の人たちにはウケいいでしょ」と、同意を求められることが多くあります。ほぼ毎回あると言っても過言ではないかもしれません。つまり、求人企業側にもそうした認識が広まっているということです。結局、収入に関する訴求を控えめにするのは、時代の流れに沿っていると言えるでしょう。

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生産性に関する誤解

ただ、働き方改革の狙いを考えた場合、働きやすさばかり強調するのは、実は片手落ちの側面もあります。少し本題とはそれますが、厚生労働省のホームページには「『働き方改革』の目指すもの」として以下のことを掲げられています。

我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

この中で着目したいのが「投資やイノベーションによる生産性向上とともに」の文言です。さらっと書いてありますが、読めば読むほど「生産性向上」が重たいワードだと気づきます。生産性向上は「就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」と並列されており、同時に達成しなければならない目標です。

ここで重要なのは、「生産性」に対する理解です。生産性はインプットに対するアウトプットで、投資に対してどれだけの成果を出したかだと言えます。労働時間を減らしながらこれまでと同等以上のパフォーマンスを目指すのは業務効率化で、残業(労働)時間削減だけでは、働き方改革を達成することはできないのです。生産性を向上させる、一言で言ってしまうのであれば、「儲かる事業」を行わない限り、働き方改革は達成できないということです。

社員の幸せという新たな流れ

今、求人広告では、ホワイト企業とは残業が少なく休日が多い企業という大まかな解釈があって、おそらく世間でも同じような見方をしており、さらに働き方改革の影響で、ダイバーシティへの取り組みもホワイト企業の要素に加わりつつあります。これは、ブラック企業への批判→ホワイト企業への憧れと称賛→働き方改革の出現の流れの中で生まれた考えで、どちらかと言えば、非常に表層的な捉え方です。

本稿でも何度か「ホワイト企業」という言葉を使っていますが、実はホワイト企業にはブラック企業ほど明確な指標はありません。すなわち、残業0時間即ホワイト企業ではないということです。2014年から始まった、天外塾・一般社団法人フロー・インスティテュートなどのホワイト企業大賞によれば、ホワイト企業とは「社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業」と定義づけられています。

かなりあいまいな定義のように感じられますし、同大賞の選出に「評価基準はない」と明記されています。つまり、残業時間や休日日数などによってホワイト企業であるか否かは決まらないということです。ここで着目したいのが、「社員の幸せ」という一言です。近年、国内外の企業で社員の幸せが重視されるようになっています。アメリカの一部の企業では、社員の幸福度をアプリなどで見える化しようとの取り組みもあるほどです(非常にアメリカ的な考えと感じなくてもありませんが)。

いずれにせよ、「幸せ」がホワイト企業、あるいは働きやすい企業、もしくは単純に良い企業を示す一つの大きな指標となり、今後のトレンドになる可能性は十分に秘めています。求人広告の観点からは、「残業何時間」「休日何日」と単純な明記は難しく、一歩間違えれば、「何言ってんだ」と思われかねないようなことも生じるでしょう。しかしその分、取材や制作に工夫のしがいがあり、その企業独自の価値観を表せるとも言えます。

ホワイト企業や社員の幸せは、少し掘り下げてみたいところですので、後編に続きます。

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