人的資本経営と人的資本の情報開示、ISO 30414、その基本と特徴
人材

先進的に人事に取り組む人とたちのコミュニケーションで「人的資本経営」という言葉が出ないことはありません。特に大企業や上場企業、外資系企業ではもはや人事は、採用、教育、配置、異動などあらゆる面で人的資本経営なしで語れなくなっています。一方で、人的資本経営は人口に膾炙するとまでは言えず、まだまだこの言葉に戸惑いを覚えるケースも多いようです。人的資本経営、人的情報開示、ISO 30414の混同も見受けられます。そこで今回は、人的資本経営、人的情報開示、ISO 30414、それぞれの特徴や基本について、ごくごく簡単に説明します。

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人的資本経営、人的資本の情報開示、ISO 30414はまったく別物。

人的資本経営、人的情報開示、ISO 30414は、それぞれまったく別物ということを、まずは抑えましょう。よく見てください。人的資本経営は「経営」と言っていますし、人的資本の情報開示は「情報開示」と言っています。ISO 30414は「国際標準」なので、3者は同じものにはならないのです。ところが、それぞれは別個のものでも、3者の関連がないわけではありません。それどころか、密接に関連し合っています。だからややこしいのです。

ここで、3者について、概念的なところだけを記します。あまり細かいことを言うと混乱しますので、本当に表層的なところだけを取り上げるので、その点はご了承ください。

■人的資本経営
人材を資本と捉え、価値を最大限に引き出す経営のあり方を指します。要するに、人材に投資して、一人ひとりに活躍してもらうのです。人材を「スキル」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。スキルを確保するために、お金をかけて(投資して)獲得(採用)するか教育研修を実施します。やや乱暴な言い方をすると、設備投資と同じような感覚です。ただ、人は成長もしますし、意志もあります。個性もあります。単にお金をかけさえすれば、良いもの(人・スキル)が手に入るわけではありません。この点が大変に難しく、人事や経営の腕の見せ所でもあるわけです。

■人的資本の情報開示
自社の人的資本に関するさまざまな情報を公表することを指します。もっとも知らせたいのは、どんな人材がいるかで、これも上記と同様に「スキル」をベースに考えるとわかりやすいと思います。採用や教育研修にどれだけお金をかけて、どんなスキルをどれだけ保有できたかを公表するのです。人材に対してどんな施策を行い、どんな結果をもたらしているか、広く世に知らしめること、と言っても良いでしょう。開示された情報は、社外の人たちはもちろん、社内の人たちも見ることができます。

■ISO 30414
人的資本の情報開示のためのガイドラインを指します。人的資本を情報開示しろ、と言われても、一体何を開示すれば良いのだ、となるでしょう。「うちに良い人材たくさんいますよ」という程度の内容では意味がありません。そこで、何をどう開示するかのガイドラインが生まれました。それが国際標準規格のISO 30414です。ISO 30414では、誰が見てもわかり比較できるように、人的資本情報を数値で表します。

本来は人的資本経営ありきなのだが。

以上見てきたように、初めに人的資本経営があって、企業がどれだけ人的資本経営を行っているか客観的に測るために人的資本の情報開示があり、さらに、人的資本の情報開示をサポートするためにISO 30414があるのです。要するに、人的資本経営→人的資本の情報開示→ISO 30414の順番で考えれば良くて、そうすれば何の疑問もなくスッと頭に入ってくると思います。

人的資本経営は最近できた概念のように思われがちですが、歴史はけっこう古いです。2000年代にアメリカで「The ROI of Human Capital」と題する本が出版されていますし、イギリスの学者アダム・スミスが18世紀に唱えていたという説もあります。日本でも、「企業は人なり」という言葉が広く知られています。「企業は人なり」は人的資本経営そのものと言っても良いかもしれません。

つまり、人的資本情報を開示するのは最近の動きでも、人的資本経営そのものは、古くから行われてきたのです。ところが、人的資本経営が最近生まれた概念のように扱われ、かつ何となく海外からもたらされてきたように捉えられてしまっています。このことが、人的資本経営というと、なんだかとてもややこしいように思われる原因となっていると推測されます。さらに言うと、人事の間でトレンドになった順番に問題があるでしょう。

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日本では最初にISO 30414が広まった。

人事の間でトレンドになった順番で言うと、ISO 30414→人的資本の情報開示→人的資本経営、あるいはISO 30414→人的資本経営→人的資本の情報開示です。いずれにせよ、ISO 30414が最初にウワっと人事の中に広まりました。ISO 30414がリリースされたのは2018年で、2020年ごろには海外で人的資の情報開示のために使われ始めました。その流れで日本に持ち込まれたので、人的資本経営も人的資本の情報開示もすっ飛ばして、いきなりISO 30414となったのです。

識者たちはISO 30414がどんなものかわかった上で向き合っていたのですが、あまり専門知識のない人たちも一斉にISO 30414に飛びつき、言葉だけが独り歩きしたみたいになってしまいました。人的資本経営を抜きにして、ISO 30414に沿って数値化することだけを志向してしまったというわけです。もちろん、その後ほとんどの場合は、人的資本経営に行きつきます。つまり、人的資本経営がされているか客観的に測るために人的資本の情報開示があり、ISO 30414は開示のためのガイドラインに過ぎないと理解します。

ISO 30414に触れながら、人的資本経営について語ることは何の問題もありません。ただ、知識のあまりない状態で聞くと、ISO 30414=人的資本経営のように聞こえてしまうのです。開示する数値が良い、すなわち良い人的資本経営ができているということになるので、誤解されやすい面はあるでしょう。ただ、ここまで読めば、人的資本経営と人的資本の情報開示、ISO 30414がまったく別物だとわかったはず。さらに細かく深い話はいくらでもできますが、一旦ここまできちんと整理していただければと思います。

まとめ

人的資本経営と人的資本の情報開示、ISO 30414はそれぞれまったく別物です。根っこにあるのが人的資本経営。人的資本経営がどのくらいできているか客観的に判断するために、人的資本の情報開示がある。さらに情報開示の際、各社バラバラだと良し悪しの比較ができないから、ISO 30414というガイドラインを作った。こうした流れをつかんでおけば間違いないでしょう。最近は3者の中で特に人的資本経営がクローズアップされていますが、以前ほどには騒がれなくなったような気もします。飽きられたのか当たり前になったのかは今のところ不明です。本サイトでは引き続き、人事のトレンドに注目していきます。

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