若者の定着率を高め、エンゲージメントを向上させるには

前回の記事で、若者の離職率が高まっていることをお伝えしました。人事の大きな課題の一つとして取り上げられることも少なくありません。今回、若者の定着率、エンゲージメントについて取り上げてみます。現状、コロナ禍で採用を控えている企業は多くありますが、だからといって、若手の定着を疎かにしていいということにはなりません。たとえ、ここ1~2年は採用を控えたとしてもどこかのタイミングで世代交代はせねばならず、どの企業にとって若手の定着は必要不可欠だからです。本記事は事実をデータでもって示すというよりは、個人的な見解を示すことが中心となります。その点はご了承ください。

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なぜ会社を辞めるのか

若年層の離職率が高まっていることは、平成30年若年者雇用実態調査からも明らかでした。では、なぜ辞めるのか。これを考えてみたいと思います。よく言われていることとして、「我慢が足りない」「仕事に対する意欲がない」「経済的に豊かになった」「会社に将来性が感じられない」「気軽に転職できる」などが挙げられるでしょう。大別すると、若者の性質・性格に起因することと、会社や社会情勢など環境的な要因に分けられます。いずれも間違いとは言い切れないものの、決定的な理由ともならないでしょう。私は、こうした理由の裏側にある決定的なものとして「仕事が面白くないから」、もっと言えば「仕事に尊さも意義も感じられないから」だと推察しています。

自らが何からの面白さ、あるいは意義を見出しているのなら、簡単に辞めようとはしないでしょう。一方で、仕事を生活の糧を得るための一手段とのみ捉えているのなら、辞めるという選択にそれほど大きな抵抗は持たないと考えられます。綺麗事を言っているように聞こえるかもしれませんが、むしろ、面白さと辞めるという選択を天秤で図った場合、面白さが勝っていれば辞めるという選択をしないのではないかと、非常にドライな話をしているに過ぎません。仕事の話を単純化していることは自覚していますが、指摘したいのは、仕事の面白さ、意義、尊さという部分を少々疎かにしている面があるのではないかということです。

なるほど、会社パンフレットやHPには会社や仕事の意義ややりがいが書かれています。しかし、それこそ建前というか綺麗事で、知りたいのはもっと現場に則したものと言いますか、現にその会社に属し、その仕事をしている者だからこそわかる、面白さや意義、それと同時に大変さや厳しさです。さらにはそれよりもっと以前に、就職する前段になぜ働くのか、仕事をするのかということが、深く語れていないような気がしてなりません。

若者はなぜ働くのかという疑問にぶち当たるのか

最近、「なぜ働くのか」をテーマにした書籍などが出ていますが、背景には、それだけなぜ働くのかという疑問を持つ人が増えたことが考えられます。あるいはそうした疑問が顕在化したとも言えるでしょう。現在は働くことの意義が示される前に、ブラック(企業)、過労死などの言葉に代表されるように、働くことのマイナス面が強調されがちです。あるいは不正などがニュースに流れると、悪いことをして儲けているというメッセージが垂れ流されています(うがった見方をするなら、悪いことをしなければ儲からないというメッセージにも受け取れます)。子どもたちを指導する学校ですら、仕事の意義が語られる前に、仕事は大変だ、ストレスがたまる、残業代が出ない、働きに給料が見合っていない、などというマイナスのイメージを実に丁寧に根気強く植え付けてきます。こうした状況の中、仕事に対する嫌悪感を抱き、なぜ働くのかと疑問を持つのはある意味で当然と言えます。この場合のなぜ働くのかという疑問は、できれば働きたくないという願望と表裏一体です。

思うに、なぜ働くのかということについて、今の40代以降のシニア世代はそれほど真剣に考えてきませんでした。学校を出れば働くのが当然でしたし、会社は勤め上げるものでした。いちいち疑問を挟む余地もなく、大変なことがあってもとにかく続ける。仕事を続けることで面白さや意義に気づいた人もいるでしょうし、そうでない人もいるでしょう。どちらでも良かったのだと思います。なぜなら、続けることそのものが重要だったからです。会社側も終身雇用を前提に制度を整えていました。しかし、今は終身雇用は崩れ、長く勤めたからといって、得られるリターンは限定されています。つまり、会社側の社員を拘束する力は弱まり、これが若者の離職率が高い原因の一つで、エンゲージメントが注目されました。

そこで慌てて就業環境を改善し、ある意味で社員をお客さん扱いして採用やエンゲージメントにつなげても、効果には限界がありました。自分の言葉の揚げ足取りみたいなのですが、会社にとってお客さんはお金を出して商品やサービスを買ってくれる人で、社員ではありません。就業環境を整えるのは重要な施策の一つですが、決して手を抜くことや楽をすることを推奨しているのではないはずです。就業環境を整えた分、いい仕事をしてほしいというのが本来の意味でしょう。それにも関わらず、就業環境を整えることが社員を楽させることとイコールみたいに思われている節があるので、特に新卒社員を中心に残業や福利厚生のことを聞きにくい雰囲気があります。そんなことを聞いたら楽をしたいと思われるのではないかと求職者の側は考え、会社側も会社側でそうみなす風潮が垣間見れます(中途入社の場合はこのあたりをズバズバ聞く傾向があります。就業環境が理由で仕事を辞めた求職者も少なからずいるからです。ですので、新卒・中途に関わらず、就業環境に関することは、働く上で重要な要素で、聞けない雰囲気があるのはおかしな気がします)

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食うために働くとはどういうことか

今の若い世代は、上の世代がなぜ働くのかという問いについて、ほとんど無自覚に無視してきたつけを払わせられているのかもしれません。もっと強く言えば、離職率が高いのは、仕事に対する誤った価値観を押し付けられた結果とも捉えられます。しかし、だからといって、それでは仕方がないねということにはならないでしょうから、改めてなぜ働くのか、仕事の面白さ、意義、尊さを教える必要があるはずです。

なぜ働くのかということでいうと、食うためという回答も一つあります。同種の主張に最低限の収入を得られればそれでいいという回答もあり、否定されるものではありません。しかし、この回答がしばしば最低限の仕事しかしない、もっと言うと、手を抜く、いい加減な仕事をするくらいの意味で使われることがあるように感じます。最低限の収入を得ると最低限の仕事をするは、別の主張であると考えられます。

また、給料分の仕事をするという主張も危険をはらんでおり、前提として何をもって給料分とするか定義されていない、つまり、定義によっていくらでも都合よく変えられてしまいます。同時に、この考えを突き詰めると新入社員の給料はほとんど出ないことになり、利益を出せば還元する、利益を出さなければごみ扱いというブラック企業の主張がまかり通る可能性すらあることも考えあわせなければならないのではないでしょうか。付け加えるなら、バックオフィスの業務が軽んじられる傾向も生じてしまいます。

いずれにせよ、多い少ないに関わらず、給料のため、お金のため、食うために働くというのは一面の真実ではあります。その際、尊いお金を得るために尊い働き、仕事をするということをもっと真摯に伝える必要があるはずです。お金の話も仕事の話も、教育現場を含め、積極的に触れてこなかった分野です。これからは、少し向きを変えていく必要があるでしょう。もちろん、お金以外の側面からも、働くこと、仕事について、その面白さや意義、尊さを見つめ直す時がきています。

仕事の面白さを知るために必要なこと

仕事の面白さを伝えるというのは、簡単ではありません。言葉では限界があります。やった者でしかわからない面白さ、辛さ、大変さ、感動みたいなものがあるでしょう。しかも、一日二日やった程度ではわからないこともたくさんあります。すると、どうしても一定の期間、従事してもらう必要が生じます。一方で、今のスピード時代に、3年続ければ面白さがわかると言われてもピンときません。このため、同時に短期的な面白さを味わってもらうことも重要になってくるわけです。

さらに、前提として、仕事の真の面白さを理解・体感するために、その仕事を「出来る」ようになることが求められます。仕事ができないのに、手応えや面白さを感じるのは無理があるからです。そして、仕事を覚え、出来るようになるというのもまた容易なことではありません。これはあくまで個人的な考えですが、仕事が出来るようになるには、ある一定の期間、特に新人のころに、時間を度外視して仕事に取り組むことが必要になるはずです。人によってはサクサクと仕事を覚えることもできるでしょうが、みんがみんなそうとは限りません。むしろ、一部の優秀で勘の良い人を除けば、泥臭く打ち込む期間がなくては、仕事を覚えられないのではないでしょうか

仕事に限らず、新しく経験のないものを行う場合は、例えば、趣味のものであっても、最初からスムーズにいくとは限りません。出来るようになるために初期のころは集中してその物事に取り組むはずです。要するに、趣味程度のものであっても、出来るようになるまで一定の期間が要されるのです。まして仕事となればなおさらです。しかし、今は働き方改革などの影響で、なかなか泥臭く打ち込むということがしにくくなっています。会社側にとっても、そんなことをされては困るかもしれません。ということは、見方を変えれば、就業時間内に勘どころをつかみ仕事を覚えるような優秀な人しか、仕事の面白さを味わえないことになります。もっというと、そうした人しか会社で生き残れなくなります。たとえ集中して打ち込む期間がなくても仕事を覚えられたとしても、サクサク出来るようになった人とは大きく差がつきます。こうした状況を本人と会社側がどう判断するか、疑問に思います。

加えていうと、仕事を教えるに際して、テレワークなどの影響で今後はオンラインでの研修・教育が中心になる可能性もあります。すると、見て覚える、一緒に仕事をしているからわかるコツみたいなものが、なかなか伝わりづらい状況が生じます。今どき、技術は盗めなどというと時代遅れの感がしますが、見て覚える、その場にいて体感してわかることも少なからずあるはずです。こうしたことをどうフォローしていくかも、仕事の面白さを伝える上で十分に考慮する必要があるでしょう。

今後、仕事の面白さを伝えるのはますます難しい状況になるかもしれません。しかし、エンゲージメントを高めるためには、究極的には仕事の面白さを知ってもらうしかないのではないでしょうか。少なくとも、仕事の面白さを知るのと知らないのとでは、大きく異なるはずです。また、仕事の面白さ、意義、尊さを伝えるのは、一会社の問題、単にエンゲージメントを高める方策に限らず、社会的な課題とも捉えられます。仕事・職業について、知る機会・学ぶ機会がさらに増えることを願います。

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