【人事関連ニュース】中小企業にもパワハラ防止措置が義務化

2022(令和4)年はいくつか大きな法改正・施行がありました。中でも耳目を集めたのが、140年ぶりに成人年齢が引き下げられたことでしょう。他方、人事・労務に関する法律についていくつか注意しなければならないものがあります。今回は労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」の義務化を取り上げます。

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職場のパワーハラスメント防止対策義務化までの流れ

まずはパワハラ防止措置が義務化されるまでの流れを確認しましょう。2019年(考えてみれば同年は「コロナ前」です。随分前のように感じますし、この3年のうちに社会は激変しました)に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立されました。これに伴い「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)が改正され、職場のパワハラを防止する対策を講じることが義務となったのです。

同時に男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法でも、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等のハラスメントの規定が一部改正されました。この結果、国と企業、働く人の責務が明確になり、防止対策が強められました。防止対策は2020(令和2)年6月1日に大企業に対し施行され、2022年4月1日には中小企業にも施行されました。

パワハラ防止の狙い

こうした措置が実施される背景として、パワハラなどが働く人の能力発揮の阻害要因となっていることに加え、人格や尊厳への棄損が問題視されていることが挙げられます。企業側のマイナス面も大きく、秩序の乱れや人材の流出(離職)、社会的評価のダウンにもつながるケースも想定されます。

パワハラ防止対策は言ってみれば企業として当たり前に行うべきことです。それがなぜ今さらながら法令で義務化されたのかについて思いを巡らすと、近年あるいは将来の労働力不足への対応との見方ができるのではないでしょうか。つまり、今まではパワハラで人材が離職しても、代わりがいた。しかし、今は働ける人を遊ばせておく余裕はなくなりました。働ける人を働けないようにしてしまうのは、社会的損失であり、企業として許されない行為になった、という見方ができるかもしれません。

なお、2020年の厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年以内にパワハラを受けたとの回答は31.4%に上っており、対策は急がれていました。

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パワハラの定義と、求められる措置

厚生労働省によれば、職場におけるパワーハラスメントは以下の1~3、いずれも満たす場合となっています。

1.優越的な関係を背景とした言動であって、
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
3.労働者の就業環境が害されるもの。

具体的には、身体・精神への攻撃、仲間外れ、業務上明らかに不要な業務の要求、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事への遂行命令、私的なことへの過度な立ち入り――などとなっています。

「義務化」ですので、企業は当然に上記に該当するパワハラを防止するための措置を実施しなければなりません。具体的には、「方針等の明確化および周知・啓発」「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備「職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応」、これらに加え、「併せて講ずべき措置」として、「相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること」などが掲げられています。さらに、実施が「望ましい」とされている取り組みとして、「パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは、単独ではなく複合的に生じることも想定し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備すること」などが示され、事業主には責務の趣旨を踏まえながら積極的な対応が求められています(派遣労働者に対しては、派遣元のみならず、派遣先事業主も措置を講じなければならないこととなっています)。

約半数の中小企業が「パワハラ防止施策」を実施との調査結果も

サブスクリプション型基幹業務システムを開発・販売するピー・シー・エー株式会社(東証プライム)が、2022年2月15〜17日に従業員数100~500名の中小企業で人事担当を務める308人に「パワハラ防止施策」の実態調査を行ったところ、実施しているが約半数の52%という結果になりました。この数値を多いと見るか少ないと見るかは、意見の割れるところかもしれません。自社にパワハラはないとの考えのもと、特別な措置を講じないと判断した企業もあると推測されます。

また、実施している企業(n=160)に対し、効果を感じているかとの問いには「非常にそう感じる」が24.4%、「ややそう感じる」47.5%と回答。一定の効果を実感していることが伺えます。ただし、全体を見ると効果を実感しているのは約3割にとどまるので、これからさらなる対策が求められていると言えます。

先ほど、人材を活躍できない人材にしてしまうのは、社会的損失が大きいと言及しました。しかし、社会以前に企業が大きな損害を被っています。人口減少社会となり、企業は慢性的に労働力不足に陥っています。人材がいなくなったからといって、簡単に補充(採用)はできません。特にパワハラで人材が辞めたとなれば、ますます採用は厳しくなるでしょう(こうした話は容易に流布するものです)。採用力という点では、中小企業は大企業と比較するとどうしても遅れを取ります。施行は大企業の後に中小企業となっていますが、実は中小企業ほど対策を強化する必要があると考えられます。

※調査の詳しい内容については、下記のプレスリリースをご確認ください。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000068180.html

まとめ

職場のパワーハラスメント防止対策は2020年に大企業に、2022年4月1日に中小企業に、それぞれ施行されました。企業が講ずべきことして、「方針等の明確化および周知・啓発」などが示されています。一方、2022年2月に行われた調査では、回答企業の約半数が措置を実施しているという結果になりました。パワハラは働く側、企業側、双方にとって大きなマイナスとなり、何のメリットもないことです。放っておいていいことではないので、必要に応じ、自社のパワハラに関する実態調査なども行いながら、必要な措置を講じ、効果を上げることが求められます。

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