本サイトではこれまで、中途向け求人広告を作成する際のコンセプトメイキングやターゲットなどについて解説してきました。そうした内容はどちらかというと既に求人広告が何であるか、およそ概要程度は知っている。1度や2度は求人広告を作成したことがあるような方が対象となっていました。しかし、初めて求人広告を作成するに当たって基礎的なことを知りたいという声があり、また、既に作成の経験があっても、前例を踏襲しながら何となく作成しているケースも少なくないと聞きます。そこで今回は、求人広告をこれから作成するに当たり、基礎の基礎を紹介します。作成の土台となる考え方やノウハウを解説します。
※本ページでいう求人広告は基本的に中途向け求人広告を指します。
目次
求人広告とは、人材に応募してもらうための広告である。
極めて当たり前のことを言いますが、求人広告とは人材を募集するためのものです。なぜ当たり前のことをわざわざ冒頭で述べるのかというと、とても大事なことであると同時に忘れがちなことであるからです。求人広告は人材(求職者)に応募してもらって、初めて価値を発揮したと言えます。副次的効果として企業ブランディングにつながる側面もありますが、第一義として求職者に応募してもらうことを考えます。何気なく書いているようで、これは非常に重要な視点です。つまり、求人広告は求職者に向けたものでなくてはならず、BtoCの企業であればつい消費者を意識してしまいがちですが、自社商品やサービスのユーザーと職を求めている人材では、求めている情報が異なる場合があることを理解しなければならないでしょう。
では、求職者がどんな情報を求めているか。まずこのことをしっかりと理解しておかないと求人広告は作成できません。参考となるのはハローワークや人材エージェントなどの求人票です。求人票に記載されて情報が、求職者が知りたいことです。具体事項を以下に列挙します。
会社概要(事業内容、従業員数、設立年、代表者、資本金など)、勤務地、勤務時間、給与、待遇・福利厚生、仕事内容、応募条件(求める人材、必須条件、歓迎条件など)、雇用形態、休日・休暇、選考プロセス、連絡先
上記の情報がなければ、求人票としての体をなさないことはすぐに理解できるでしょう。気の利いた求人票であれば上記に加え以下ことが記載されているケースがあります。
会社・事業の特徴・強み・将来の展望、人材を募集する背景、仕事のやりがい、人材に期待する役割、研修・教育制度(特に入社後に受けるもの)、配属部署の概要(人数は雰囲気など)、キャリアプランなど
実は、求人票も求人広告も書かれている項目には大きな違いはありません。特に最近の求人票は詳細まできちんと記されており、情報量としては十分です。従来は求人広告で伝えていた内容までも求人票でカバーし出しています。では、情報量の多寡を持って求人票と求人広告を分けるのかというと、それは誤った認識と言えます。求人票と求人広告は異なるものです。
求人票と求人広告の違いは、情報の取捨選択。
求人票と求人広告の違いは、情報の取捨選択です。より正確には情報の取捨選択の強弱の違いと言えます。取捨選択の強度が弱いのが求人票で強いのが求人広告です。求人票が求人に関する情報を要約しているとすると、求人広告は選択と集中を行っています。求人票を作成する場合は、たくさんの情報をすっきりと1~2枚の紙に収めることを考えるでしょう。情報をまんべんなく伝えようとするはずです。
しかし、求人広告は発想が異なります。求人広告の場合は、求職者に最も聞かせたい情報を選び出し、事実に基づいて情報を付加・強調します。さらにそれをスピーディに伝えようとします。スピーディに伝えるためにもっとも活用されるのがキャッチコピーです。キャッチコピーは気の利いたことを言うのではありません。広告の戦略に従い、もっとも強調し伝えたいことを言うのです。
また、付加・強調するとは単に目立たせることにとどまりません。さまざまな角度から、魅力を伝えるのです。例えば、仮に月給が50万円という情報があったとしましょう。これだけでは単なる数字ですが、ここに残業がなく年間休日120日という情報が加われば話が変わってきます。「残業なし・年休120日なのに月給50万円スタート」などといった伝え方ができてきます。
もう少し言うと、その条件でなぜ月給50万円かという疑問が沸いてくることを想定して、「当社は収益性の高い事業を展開している」などと、取材などを通じ獲得した情報を付け加えます。さらに、場合によっては、月給50万円でどんな生活が送れるのか、などといったことも伝え、求職者の応募したい、この会社で働きたいという気持ちを誘引します。
こうした情報の取捨選択、選択と集中を打ち出し・訴求点の発見、コンセプトメイキングなどと言ったりします。ただし、取捨選択・選択と集中といっても、必要な情報はすべて伝えます。上記の四角で囲った情報のうち、上段の情報はまず間違いなくどんな求人広告でも表記しているはずです。求人票と異なるのは、情報の伝え方です。なお、「月給50万円」などのわかりやすい訴求点は通常なかなかあるものではありません。このため、求人広告の制作者には多大な工夫が求められるのです。
情報の取捨選択、魅力付けはどのように行われるのか。
情報の取捨選択、選択した情報の付加・強調は、一定の法則に基づいて行われます。具体的には「求職者目線」からの取捨選択、付加・強調です。つまり、求職者が最も求めるだろう情報を選び取り、さらに求職者が知りたいだろう情報を付加・強調し、魅力付けを行っていくのです。制作者が勝手な判断で情報を選び取るのでもなければ、好き勝手に魅力を創造するのではありません。あくまで「求職者目線」に則ります。
この場合、求職者とはメインとなる求職者を指し、「ターゲット」と読んだりします。求職者は職を求めているすべての人を指す言葉ですが、ターゲットは求人企業が本当に必要とする人材を指します。よく目にする商品やサービスの広告は、ターゲットを20代女性、30代共働き世帯、などと設定することが多いと考えられますが、求人広告では通常、より詳細にターゲットを絞り込みます。ターゲットの絞り込みを、求人広告の制作者は「ターゲットセグメント」と言うケースが多いです。ターゲットセグメントは例えば、「30代の営業経験者、家族持ち。成績が良いが給料が上がらない。成果と給与が結びつく環境で活躍したいと思っている。意欲があり、前向きに働ける人」という感じ行います。
最近は「ペルソナ」という言い方をすることもあるようです。ペルソナでもターゲットでもどちらでも構いません(本ページではターゲットに統一しますが)。大事なのは、その人の転職する理由、社内で置かれた状況、キャリアに対する考え、働き方に対する希望など、「仕事」に関することに着目することです。生い立ちや家庭環境を深く考えても、必ずしも効果的とは言えません。
適切にターゲットセグメントを行い、ターゲットが設定されると、求人広告の中で言うべきことが見えてきます。つまり、情報の取捨選択、付加・協調ができるようになるのです。ターゲットセグメントは求人広告の作成で非常に重要な工程であることを覚えておきましょう。ただし、一つ注意点があります。それはターゲットセグメントするといっても、あり得ないターゲットを設定してはいけないということです。「本当にそんな人材がいるのか」「うちの会社にこの人材が入社するのか」と感じるほど理想を追い求め過ぎてはいけません。あくまで現実と照らし合わせるバランス感覚が必要になります。
少し高度な話。ターゲットを設定すると、求人広告はどう変わるのか。
ターゲットによって、求人広告が大きく変わります。別の言葉で言うと、自社や仕事の魅せ方、打ち出し、訴求点が変わってくるのです。先ほど、「月給50万円」の例を示しました。月収50万円は20代や30代の若手にとっては魅力的な数字かもしれませんが、大手企業の部長クラスには物足りないかもしれません。つまり、ターゲットにとっては魅力ともなり得るし、反対にマイナスポイントにもなってしまうのです。大手企業の部長クラスをターゲットにするなら、「年休120日、残業なし」を打ち出しにしたほうが良いかもしれませんし、、また別の魅力を探す必要があるかもしれません。場合によっては、思い切ってターゲット設定を変えることもともあり得ます。
求人企業の何が魅力か、何が打ち出しになかは、ターゲットによって大きく異なります。自分たちが魅力だと思っていたものが、まったく魅力にならなかったり、自分たちにとっては当たり前のことが大きな魅力だったりすることは少なくありません。これが求人広告の難しさでもあり面白さでもあると捉えています。
あとがき
最後はやや込み入った話になってしまいましたが、求人広告と求人広告の作成について理解が深まったと思います。求人票が求人情報を要約したものだとしたら、求人広告は求人情報を取捨選択し、事実に基づいて付加・協調したものです。情報と接する時には「求職者(ターゲット)目線」が極めて重要で、ターゲットによって求人広告の内容、訴求点・打ち出しは大きく変化します。こうしたことを踏まえ、求人広告の作成に取り組んでいただければ幸いです。