【コラム】若手にジュースをおごると言ったらシャンプーが出てきた

この前、といっても数年前になるんですが、取材であるセミナーに行ったら、こんな話ができました。「若手と一緒に外回りをして、喉乾いただろうからコンビニに寄ってジュースをおごってやると言ったら、喉は乾いてないからとシャンプーを持ってきた奴がいた」。

セミナーの趣旨からは若干それる話ではあったのですが、とても興味深く、また、考えさせられました。興味深く、考えさせられるポイントとしては、ジュースをおごると言っているのだからシャンプーを持ってくるのはおかしい。しかし、その一方で、シャンプーを持ってくる奴の気持ちもわからなくもない、そう、わかってしまう。かつ、なぜシャンプーではダメなのかがうまく説明できないと思ったのです。

おそらく若手の理屈としては、飲み物をおごると言われたが喉は乾いていない。とりあえず店内に入ったら、ちょうどシャンプーが200円ほどで売っていた。ジュースも200円くらいだし、同じ200円出してもらうならよりニーズの高いシャンプーを買ってもらおう、とだいたいこんなところではないでしょうか。

仮に私がおごるほうの立場だった場合、同じことをされたら、どのように対応するのが適切だろうと思いを巡らせました。「ジュースと言っているのに、シャンプーはダメだろ」「え。喉は乾いてないですし、ちょうど家のシャンプーが切れましたし」「ジュースにしろ」「いらないです。なんでシャンプーじゃダメなんですか」「ジュースと言ったから」「えー」と、不毛な会話が展開される予感がしました。

なぜシャンプーは不可でジュース限定なのか。もちろん、この場合のジュースは飲み物を代表した言葉なので、コーヒーや牛乳に変わっても良いですが、シャンプーはダメなのです。このことについて、若手が納得できる説明はどんなか。セミナーではこぼれ話として出てきただけなので、議論はありません。私が個人的なテーマというか問題意識としてその後も持ち続けました。

実はセミナーとは別の場面で似たようなことがあったので、これを機会に、解決しておこうという思いもあったのです。折に触れて思い出し思案すると共に、何人かの知り合いにも話を振ってみました。みんなだいたい似たような反応で、それをされたらたしなめはするだろうけど、なぜダメかはうまく言えない。もしかしたら、シャンプーを買ってやるかもしれない、ということでした。

なかなかすっきりとしない日々を過ごしていたのですが、ある時ふと気づきました。もしかしたら、私(たち)は物事をお金に換算する思考に慣れ過ぎているのではないか、と。日常生活を振り返ってみると、これこれはいくらである、と何でもすぐにお金に変えがちです。お金という共通の価値尺度を用いるのはとても便利ですが、行き過ぎるとお金でしか物事を考えられなくなる。物事の価値判断をお金だけに頼るのも問題でしょう。また、時にお金に換算しにくいものにまで金額をつけて、価値を見出そうとする傾向もあります。その結果、本来の価値や意義が妙にゆがむことにもなります。例えば、専業主婦(夫)の年収なども、その一つではないでしょうか。

セミナーの余談で登場した件の若手に話を戻すと、若手はジュースをジュースと考えず、お金の価値に換算して約200円と計算し、200円をもらったと解釈していたと推測できます。そして、同様の解釈を無意識下で私自身もしていたがゆえに、なぜシャンプーがダメかを明確に説明できなかったのでした。しかし、今はジュースを勝手にお金に変換していたことに気がつくことができました。このため、以下のように説明することができるでしょう。「私はジュースをおごると言ったんだよ。200円のお駄賃を与えると言ったのではないんだ。ジュースが欲しくないなら話はそれまでで、シャンプーを買うことはできないよ。繰り返すけど、ジュースを買うと言ったのであって、200円をあげると言ったのではないからね」。

これで若手が納得するかはわかりません。弁の立つ者なら、何らかの反論をしてくることは十分に予想されます。しかし、一定の理解は得られるものと期待したいところです。

ところで、このケースは若手の勝手な拡大解釈があったわけですけど、その拡大解釈がたまたまお金という価値尺度だったために誤解を生ずるところまでいかず、見方によっては幸運だったとも言えます。日常生活では自分なりの解釈をして痛い目を見たり失敗したりすることがけっこうあります。相手側の独自の解釈で不快な思いをすることもあるでしょう。質の悪いことに、自分勝手な解釈をしていることは自分自身ではなかなか気づきません。仮に気づいているとしたら、かなり悪意のある行為です。自分勝手な解釈は思い込みとも言い換えられます。当たり前のことですが、コミュニケーションや人間関係に不要な波風を立たせないためにも、自分勝手な解釈は慎みたいものです。

今回は求人広告とも人事ともあまり関係のない話をお送りしました。大変恐縮です。採用活動に役立つことはほぼないとは思いますが、何かの足しにでもなれば幸いです。

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