エンプロイヤーブランディングを自社に浸透させ社外に広めるには

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前回に引き続き、エンプロイヤーブランディング(採用ブランディング)について、話をします。エンプロイヤーブランディングというと、何か気の利いたキャッチコピーを作って、それで終わり、みたいに捉える向きがあるかもしれませんが、まったくそのようなことはありません。長期的にブランドを根付かせていく必要があります。今回はその具体的な手法についてご紹介したいと思います。

まずは自社に広める。

エンプロイヤーブランディングをキャッチコピーやステートメントなど、わかりやすい形にまとめたら、まずはそれを社内に浸透させる必要があります。採用のためにブランドを確立させたのに、なぜ社内なのだ、と感じたかもしれません。しかし、現に働くスタッフがブランドを理解・体現していなくては、仮に採用がうまくいったとしても、エンゲージメント(定着)につながりません

対外的に発しているメッセージと実態に違いがあっては、むしろ逆効果となってしまうでしょう。そもそもエンプロイヤーブランディングには現状のスタッフに対してもエンゲージメントを高める意味もあります。このことを踏まえると、エンプロイヤーブランドの確立は、人事部や経営層のみが行うのではなく、社員が一丸となって行っていくものだと気づきます。この意味で、エンプロイヤーブランディングを確立しようとなった段階で、何らかの形で全社員を巻き込んでいくことが望まれます。

ブランド確立の理想としては、全社員が「うちの会社ってこうだよね。こういうこと好きだよね。こういうふうに仕事をするよね」みたいなことが自然と言えるようになり、普段の行動や仕事ぶりにも表れている状態です。すると、もしかすると、「うちの会社は既にそうなっているんだけど」という感想が持たれるかもしれません。肌感覚ですが、設立が10年未満で社員が100~300人までの間は、エンプロイヤーブランディングの確立と浸透は実施しやすいと思います。ないのは、わかりやすいキャッチコピーやステートメントだけ。それさえ作ってしまえば、後は想像以上に早くブランドが浸透するはずです。

エンプロイヤーブランディングというと、大企業のためにあるように考えがちですが、むしろ中小企業のほうが、社員の意思統一が図りやすく、確立・浸透させやすいのではないでしょうか。それでいて、採用やエンゲージメントに大きな力を発揮します。さらに、規模が拡大するにつれて社員間で薄れていく設立時の思いや企業の存在意義を強く残すことができます。早めにブランド確立の着手をすることを強くおすすめします。

ブランド委員会を設立し、情報を発信し続ける。

社内にブランドを浸透させる具体的な手法としては、例えば、全部門を横断してブランド委員会を設立し、社内に向けた広報を行うことが効果的です。ブランド委員会のメンバーは、現状の部門に所属しながらブランド確立に関わることが重要なので、基本的には兼任になります。また、メンバーを固定せず、定期的な持ち回りなどにして、できる限り多くの社員にブランド委員会のメンバーを経験してもらうようにします。社内体制に余裕があれば、専任スタッフを設けます。

ブランドの広め方として、もっとも手っ取り早いのは、社内のイントラネット(組織の所属者のみアクセスできるネットワーク)を活用することでしょう。必要に応じて、小冊子やパンフレットにまとめる方法もあります。小冊子やパンフレットは、採用向けや新入社員向けに二次利用できるので、一度作っておくのもいいかもしれません。また、経営トップが社員に向かって話をするのも大切です。特に中小企業はトップとの距離の近さが一つの魅力になることが少なくありません。今はメールやテレビ会議システムなどで顔や名前を出す機会は簡単に作れます。週に一回、15分程度の講話時間を設けるなど、可能な限り積極的にコミュニケーションを取るようにしてください。

一方で、キャッチコピーやステートメントなどの唱和は、意味がないとまでは言えないものの、効果的とは言い難い側面があります。キャッチコピーやステートメントの意味をかみ砕き、説明する必要が生じます。この時、有効なのはストーリーテリングをすること、つまり、具体例を物語ることです。まさにエンプロイヤーブランディングが体現された行動や取り組みを伝えます。伝達の方法として文章にしてイントラネットなどにアップします。語り手が社長であれば、一旦は自ら口頭で話し、その後、記事化すればコンテンツとしては一度で二つ出来てしまいます。また、この時の具体例は成功談でも失敗談でもかまいません。失敗談がいかにもうちらしいということが少なからずあるはずだからです。

なお、記事化されたものは社内のみならず、対外的にも使えます。社内向けに書かれた記事は、専門用語や社内用語、社外秘の情報を載せていることがあると思います。そうした個所を適宜、編集すれば、十分に活用が可能です。失敗談などは社外に出したくないと考えるかもしれませんが、意外と好意的に受け止められることが多くあります。特に求職者は失敗談が語られているのを見ると、正直な会社という印象を持つ傾向にあるように感じられます。

更新更新、また更新

繰り返しになりますが、エンプロイヤーブランドディングはキャッチコピーやステートメント一度作れば、それでいいというものではありません。ブランドをあらゆる角度から語り、表現する必要があります。特に社外向けには、繰り返し情報を伝え続けることが重要です(求職者、採用ターゲットの目に触れるようにするためです)。中には、一度ホームページまたは採用ホームページを作成し放ったらかしというケースもありますが、それでブランドが浸透することはまずないと思ったほうがいいでしょう。

ホームページや採用ページをはじめ、オウンドメディアやSNS(FacebookやTwitterなど)、求人広告、会社説明会などを通じて、伝え続けることが大切です。このうち、オウンドメディアやSNSは利便性が高く、更新作業を行いやすいです。また、求職者からはホームページやオウンドメディアは信ぴょう性の高い情報があると捉えられる傾向があります。可能な限り、できれば1日1記事の更新を目指したいところです。

オウンドメディアなどの運営はブランド委員会のメンバーが担当するのが適切ですが、記事制作に関しては、全社員に関わってもらうほうがいいでしょう。仮に社員数100人なら、執筆回数は1人年間2~3回です。文字数も少なくてOKとすれば、それほど負担にはならないと考えられます。どうしても文章が書けない、という声が挙がれば、必要に応じて、ブランド委員会のメンバーが取材・執筆する手もあります。ただ、ブランド委員会のメンバーは基本的には所属部門との兼任ですので、負担を考えると、できる限り本人に書いてもらうようにしたいところです。

また、ホームページやオウンドメディアの作成というと、外部に丸投げにするケースも散見されますが、エンプロイヤーブランディングを確立・浸透させる上ではあまり得策とは言えません。技術やデザイン、エンプロイヤーブランディングに関するコンサルティングは外部に頼るところはあると思いますが、記事の更新などは内部(ブランド委員会)で行うのが適切です。記事作成についても、例えば1500字を超えるボリュームのあるものは外注もありですが、なるべく自社スタッフ自らが作成するほうが望ましいです。ブランドは自社で作ってこそですので、可能な限り自分たちの手で創り上げることを目指していただければと思います。

まとめ

・ブランディングは一度行えばそれで終わりということはない。
・ブランドはまず自社に浸透させる必要がある。
・エンプロイヤーブランディングは自社スタッフのエンゲージメントを高める狙いもある。
・ブランディングには全社員を巻き込むのが望ましい。
・自社のブランドを外部(求職者)に公表する。
・ブランドが伝わるように、ストーリー(具体的な体験談)を語る。
・公表は採用ホームページ、オウンドメディア、求人広告、説明会などを通じて繰り返し行う。

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