ウェルビーイング経営とは何か。考え方、健康経営との違いは?

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ここ最近、well-being(ウェルビーイング)という言葉がとても注目されています。2022年はウェルビーイング元年だ、などと言われることもありますが、ウェルビーイングとは何なのかよくわからないということも少なからずあるでしょう。さらにウェルビーイング経営などと言われると、余計にややこしくなります。これを受け今回、ウェルビーイング、ウェルビーイング経営について概要を解説したいと思います。

そもそもウェルビーイングとは

well-being(ウェルビーイング)とはその言葉の通り、well(良い)being(であること/状態)を指し、「幸福」などと訳されることが多いです。「肉体的」「精神的」「社会的」に良い状態、すなわち健康であることがウェルビーイングと呼ばれます。

世界保健機関(WHO)は健康について以下のように定義しています。

「a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity」
病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます。(日本WHO協会訳)

「すべてが満たされた状態」という点がウェルビーイングの考え方で重要なキーワードと言えるでしょう。

ウェルビーイングになるために、必要な要素

心も身体も満たされ、社会的にも良い状態をウェルビーイングということがわかりました。一方で、何をもって肉体的、精神的、社会的に満たされていると言えるのか、なかなか捉えづらいところもあるでしょう。ウェルビーイングを図るための5つの指標が示されています。具体的には、Positive emotion(ポジティブ感情)、Engagement(思い入れ/結びつき)、Relationship(肯定的な関係)、Meaning(意味、意義)、Accomplishment(達成)で、「PERMA(パーマ)」と呼ばれています。

PERMAはアメリカ人心理学者で、ポジティブ心理学の創設者の一人とされるマーティン・セリグマン(Martin E. P. Seligman)によって2011年に提唱されました。その後、PERMAモデルの5つの概念を測定する心理検査も開発されています。

※金沢工業大学にPERMAを計測できるページがありました。

ウェルビーイングと経営の関係

ウェルビーイングは概念的なところも多々あるのですが、ウェルビーイング経営とは、企業を取り巻くすべてのもの、すなわち、従業員、組織、社会をウェルビーイングな状態にすることを目指した経営と捉えることができます。

ポイントとしては従業員のウェルビーイングを向上だけを目指すものではないということでしょう。従業員だけがウェルビーイングであっても不十分で、組織のことも、さらに目を外に向け社会のことも考慮しなければならない。非常に理想的ですが反面、なかなか達成が困難な課題ということもできます。

ウェルビーイング経営は日本だけの話ではありません。ウェルビーイングと英語を用いることから、むしろ海外の潮流だと想像がつくでしょう。つまり、世界中の企業がウェルビーイング経営を行うこと、ウェルビーイングな状態を維持することに力を入れている。世界中で困難だけれども一つの理想状態を築き上げようとしていると見ることもできます。

ウェルビーイングと持続可能性

ところで、なぜウェルビーイング経営ということが言われるようになってきたのでしょうか。一言で言ってしまうと、社会情勢の大きな変化が影響しています。少々極論を言いますが、これまでは企業は売上、利益の増進をビジネスの成功とし、そこに向かってひたすら邁進すれば良かった。しかし、今は人の価値観が大きく変化し、環境問題という大きな課題もグローバルで共有しています。このため、儲かっていればいい、それが成功だ、とは言えなくなりました。売上至上主義のような会社は、誰の共感も得られません。つまり、会社の商品・サービスを使ってもらえず、入社したい、働きたいという人も減っていくのです。

日本にいると何となくピンとこないところもありますが、グローバルで見ると、環境やダイバーシティなどを意識した商品やサービスが圧倒的な支持を得ている傾向が見られます。日本企業は日本だけを見ていればいいという状況ではなくなっていることを忘れてはなりません。人口減でマーケットは縮小の一途をたどっていますし、グローバル化の波で海外の企業が日本に押し寄せてきています。これも最近のはやりの言葉ですが、現状のままではまったく「持続可能」ではないわけです。ウェルビーイング経営は企業が持続可能な成長を叶える上で、とても重要な考え方とも言えるでしょう。

持続可能という言葉から想像がつくかもしれませんが、SDGsとウェルビーイング経営も深い関係があります。SDGsを達成するための一つのあり方としてウェルビーイング経営がある。そんな考え方もできるかもしれません。

健康経営との違いは

ウェルビーイング経営と似た概念に健康経営があります。健康経営はウェルビーイング経営に先行して日本でも多くの企業に取り組まれてきました。経済産業省の「健康経営優良法人」や「健康経営銘柄」の制度をどこかで聞いたことがあるかもしれません。経済産業省では健康経営について、以下のように述べています。

従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。

これを見てわかるように、どちらかというと、従業員の健康のみをフォーカスしています。一方、既に見てきたように、ウェルビーイング経営は従業員はもちろんのこと、組織や社会のことまでも含めた概念です。ウェルビーイング経営は健康経営を含んでいる。健康経営が実践できないことには、ウェルビーイング経営も達成できないと考えられます。

ウェルビーイング経営がもたらすメリット

最後に、ウェルビーイング経営がもたらすメリットについて考えてみます。ここまでの解説でメリットは概ね見えてくると思いますが、まとめます。

まず「生産性の向上」が挙げられます。経済産業省の引用にもある通り、従業員に健康投資を行うことで、従業員の心身の健康が向上し、生産性が上がることが期待されます。なお、生産性は「産出(output)÷投入(input)」の式で表せます。リフレッシュして仕事が効率よく進められるようになった、は生産性の向上とは異なります。従業員に投資することで、既存の事業の売上が上がった、新規事業が創出できた、イノベーションが起きた、などとなって、生産性が向上したと言えるのです。

次に「人材の確保・離職率の低下」があります。従業員も組織もウェルビーイングにするのですから、その会社は相当働きやすい状態となっているでしょう。従業員のエンゲージメントも向上しているはずです。エンプロイヤーブランディングの確立にもつながります。その結果、離職率が低下し、人材マーケットで差別化も図れるようになります。入社を希望する人も増え、さらに定着も期待できるなど、好循環を生み出せます。人材の確保は難しくなる一方ですので、ウェルビーイング経営のもたらすメリットはとても大きなものとなるでしょう。

また、「企業価値の向上」も考えられます。従業員を大事にする会社との評判が立てば、企業の評価は必然的に高まります。さらに、広く社会にも目を向けるウェルビーイング経営の実践は、社会的な評価に直結します。国内では、社会的な評価と企業価値が結び付かないところもあり、CSR(corporate social responsibility=企業の社会的責任)なども十分に浸透しないままになっています。しかし、既に述べたように、日本の企業といえども、日本だけを見ていれば良い時代ではなくなっています。近年は企業がどれだけESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンス=統治)へ投資しているかを評価する動きが、機関投資家の間などで広まっています。

このほか、想定できるメリットは多くあると思いますが、代表的なものを挙げるにとどめさせていただきました。

まとめ

ウェルビーイング「肉体的」「精神的」「社会的」に満たされた状態にあることを言います。ウェルビーイング経営は従業員、組織、社会が健康である状態を目指して行われ、従業員の健康のみを注視する健康経営をより発展させたものと考えることもできるでしょう。広い視野が求められるため、ウェルビーイング経営の実現は困難ですが、もたらされるメリットは複数あります。代表的なものとして、生産性の向上、人材の確保・離職率の低下、企業価値の向上などが挙げられます。ウェルビーイング経営はグローバルで達成を目指している課題とも言えます。今後、日本でも多くの企業がウェルビーイング経営を視野に入れて企業活動を展開することが予想されます。

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