求人広告の役割としては、第一義に転職希望者、入社のキャンディデイトを集めることです。これは間違いないのですが、それ以上の意味があるというか、意味や意志を込めて求人広告の制作に当たっています。それは、求人広告はこれからのキャリアに関する一つの提案であるという思いです。
求人広告の作成に及んでは、ターゲットを設定して、その人にとって何が魅力となるのかということはもちろん、転職することによって何が変わってくるのか。つまり、転職後の未来を描きます。結局、その人に「こういう会社にこういう仕事がありますよ。キャリアの一つの選択肢としていかがですか」と語りかけている側面があるとも言えるのです。
あくまで選択の自由はターゲットに委ねながら、魅力ある一つの未来を提示します。もっとも、求人広告上ではもっと強く「ぜひこの仕事を選んでください」という言い方をすることもよくありますが、それは単に表現の問題で、実際には対面(オンライン含む)しているわけではないので、説得力という点では限界があります(限界があるからこそ、強い口調を使うなど、多様な表現の工夫が求められるのですが)。
求人広告は真実を書くことが求められる。
いずれにせよ、単なる会社紹介・仕事紹介以上の役割がありますし、個人としてはそのつもりで作成に当たっています。このため、大事になるのが「真実を書く」ことです。求人広告では「嘘ではないが本当とも言い難い」ということを書こうと思えば書けてしまいます。例えば、仕事Aがあって具体的な業務内容がBCDEだとします。ただし、Bは大変面白い業務内容だけれども、携われるのは一部の優秀な人間だけで、基本的にはCDEを手がけることになる、という条件が付随するとしましょう。
この時、業務内容Bに着目し、それを最大の訴求点とすることは可能で、広告の規定上も問題ありません。審査部門などから広告内容に関する不正の指摘を受ける確率もほぼゼロです。さらに言うと、業務内容Bに携われるというは、ターゲットが入社して実際に仕事をするまでわからないわけで、たとえ思い通りにいかずCDEを中心に手がけることになっても、それはターゲットの責任ではあります。
しかし、だからといって、それで押し通すのはターゲットに対する誠実さに欠けており、真実と言えるか疑問が残ります。仮にターゲットが目の前にいたら、ターゲットの経験やスキルを聞く前に、この会社と仕事をすすめることはしないでしょう。そもそも業務内容Bを期待して入社したターゲットが会社に定着する可能性は低く、求人企業側にとってもあまりメリットの大きいことではありません。この場合はCDEで仕事の面白さを見つけるか、ターゲットを設定し直すのが妥当です。
何とかして応募者を集めたいという苦肉の策とも言えますが、愚策に近いので、このごろはこうしたトリッキーなことをしようとする気配はなくなりました。制作者がより一層ターゲットに寄り添うようになったこともあるでしょうし、求人企業側が社員の定着を重視するようになった結果とも言えます。
求人広告で仕事を知る
求人広告は広告ですから、宣伝・PRが主な目的で、会社紹介・仕事紹介の意味合いが色濃くあります。しかし、求人は明確にターゲットを定めて制作される傾向が強いため、キャリア提案のような側面もある。そんなことをお伝えしたくて、少しだらだらと長い文を書いてしまいました。
長いついでにもう少し加えると、仕事紹介あるいは職業図鑑としての求人広告は非常に有用性が高いと感じています。特に中途向け求人広告は職種別に作成されることが多いため、仕事理解に非常に役に立ちます(新卒は新卒一括採用であることが多く、総合職として求人が出されることが多いため、一つ一つ仕事についてはそれほど掘り下げないことも多くあります)。
私自身も中途向け求人広告を見て、世の中星の数ほど仕事があると学んだものです。これから職業への理解がますます求められるようになってくると思います。その意味で、中途向け求人広告は、既存のどの職業図鑑よりも有用性が高いと言えます。求人広告を好んでみるのは業界の人だけだでしょうが、ぜひ仕事を知るという切り口で求人広告を眺めていただければと思います。