2019年と2020年の雇用・労働情勢。アフターコロナの予測も

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2020年も5月に入りました。新型コロナウイルスの感染防止に向けた緊急事態宣言は延長される見通しで、雇用・労働情勢にますます大きな影響を与えることが予想されます。今回は、コロナウイルス以前の雇用・労働情勢を振り返りながら、現在の特異的な状況を確認すると同時に、リカバリー後(いわゆるアフターコロナ)の参考にしていただければ幸いです。

有効求人倍率は高い水準を示し、人手不足感が高まっていた

厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」は、雇用情勢について以下のように述べています。

我が国経済は緩やかな回復が続く中、2018年度の完全失業率は2.4%と1992年ぶりの低い水準、有効求人倍率は1.62倍と1973年以来45年ぶりの高い水準となっており、雇用情勢は着実に改善している。

人手不足感が高まっており、 2019年3月調査では、全産業・製造業・非製造業のいずれもバブル期に次ぐ人手不足感となった。

雇用形態別に労働者の過不足判断D.I.をみると、パートタイムに比べて正社員等で人手不足感が高まっている。

発表されたのは2019(令和元)年9月27日です。この後、わずか半年の間に大きく状況が変化したのはご存知の通りです。

蛇足ながら少し用語の解説をすると、有効求人倍率は求職者1人に対する求人数で、1倍を上回れば、人を探している企業が多いということ、つまり、人手不足の状況ということです。「令和元年版 労働経済の分析」では「人手不足下における『働き方』について」がテーマとなっていました。参考までに、就職氷河期(1993年~2005年卒が該当するとされる時期)の有効求人倍率は 0.6~0.7倍の間で推移していました。また、「労働者過不足判断D.I.」のD.I.はDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略で、簡単にプラスであれば過剰、マイナスであれば不足と捉えてください。

――令和元年版 労働経済の分析

2019年までの数年間は、企業は活発に人を求め、同時に離職防止・定着を目標に、働きがい、働きやすさも大きくクローズアップされていたのが特徴でした。正社員の雇用も積極的に行う企業が多かったと言えます。

労働時間は短縮される傾向

市場全体の動きを確認したところで、企業における労働環境、中でも労働時間の動向に着目してみます。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、令和元年の月間の総実労働時間は規模5人以上でパートタイムを除く一般労働者(正社員など)で164.8時間(前年比 -1.7%)となっています。総実労働時間のうち、所定内労働時間は150.5時間(同-1.7%)、所定外労働時間は14.3時間(同-1.2%)でした。なお、所定外労働時間とは企業が定めた労働時間(所定労働時間)を超えた分の残業です。似たような言葉に「法定時間外労働時間」があります。これは労働基準法に定められた「原則1日8時間・1週間40時間以内」を超えた労働時間のことです。違いがありますので、その点はご注いただければと思います。

この数値を見てどのように感じますでしょうか。もしかしたら、随分短いと感じたかもしれません。特に所定外労働時間14.3時間は意外な数値でした。同調査によれば、産業別に見ても、所定外労働時間が20時間を超えているのは「運輸業、郵便業」に限られます。求人広告では月間残業20時間以下で一つのPRポイントになります。場合によっては、20時間ではPRにならないと考えなければならないでしょう。

多様な働き方が広まっていた

一方、「平成31年就労条件総合調査」によれば、年間休日の平均は108.9日となっています。これについては、少ないのではないかと感じたかもしれません。求人広告では120日以上がPRポイントになるかならないかの目安ですので、この調査によれば120日は十分に多いと言えるでしょう。また、「何らかの週休2日制」を採用している企業の割合は82.1%、「完全週休2日制」は44.3%です。なお、週休2日制はカ月に1回以上週2日の休みがあり、完全週休2日制は毎週必ず2日の休みがある制度です。例えば、普段は週に2日休みだが、第5土曜日だけは出勤になる、という場合は週休2日制です。年次有給休暇については、平均付与日数18.0日、平均取得日数は9.4日、平均取得率(取得日数/付与日数計×100)は52.4%です。週休制と有休については、こんなものかなと納得感のある結果ではないでしょうか。

近年は働き方の多様性が一つのテーマとなっていましたが、その傾向を示す一つとして変形労働時間制の採用があります。採用している企業割合は、同調査によれば62.6%。最近増えていると感じてはいましたが、5割を超える企業が採用していると少し驚きの結果になりました。種類別に見ると、「1年単位の変形労働時間制」が35.6%、「1カ月単位の変形労働時間制」が25.4%、「フレックスタイム制」が5.0%となっています(変形労働時間制については別途、詳細の解説を予定しています)。

また、新型コロナウイルの影響でテレワークが増えていますが、総務省によれば、テレワーク導入の状況は2018年は13.9%、2019年は19.1%となっています。また、2019年までは、大企業を中心に導入が広がっていました。テレワーク導入企業のうち、44.6%が従業員2000人以上の規模です。しかし、最新の情報では、企業の大小を問わず導入が活発に進んでおり、また、中央省庁や自治体も導入の動きが出ているとのことでした。

アフターコロナの予測

一連の新型コロナウイルスの騒動が収束した後(アフターコロナ)について、人材・働き方に関する多様な推測が飛び交っています。人手不足の状況が一転し、人材の新たな獲得はしないとの声もあります。一方で、現在の特異的な状況の中で企業のあり方を変え、その過程で企業間での人材を入れ替え、つまり、ある企業を退職した人材をまた別の企業が採用するという動きが数カ月の間に一気に行われ、転職市場が一時的に活発になるとの推測もあります。

また、人材の動きとしては、企業に見切りをつけ、独立起業、フリーランスを目指す者、反対に改めて企業に価値を感じ雇用状態が維持されるよう意欲的になる者が出るとの見方もあります。リーマンショックの時も同様のことが実際に起こったと思います。これに合わせるように、企業はこれまで正社員雇用一辺倒を変化させ、プロジェクト型単位での採用が多くなるとの見方も出ています(これについては、この回でも少し触れています)。

いずれも、もっともらしく、十分に起こり得ることだろうとは思えます。少なくとも企業と人材、雇用、働き方のあり方は変わることは間違いないと考えられます。より正確には、各調査でも明らかなように、これまでも変化はありました。アフターコロナではより顕著で急速な変化が起こると考えられます。求人広告を含め人材採用には、求める人材の設定と、それに合わせた訴求がこれまで以上に必要になると考えています。さらなる知識の獲得、スキルの向上を図る所存です。

(まとめ ※2019年の新型コロナウイルス以前の状況)

・求人倍率が高い水準。
・企業の人手不足感が広まる。
・正社員雇用が活発。
・労働時間の短縮化が進む。
・変形労働時間制の採用は5割超。
・テレワークも広まる。

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