中途採用向け求人広告で、求職者を訴求する2つの方法

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求人広告を作成する時に主な論点の一つとなるのが訴求点(打ち出し方)です。訴求点は大きく分類すると二つあり、一つはハード面、もう一つはソフト面です。それぞれについて以下で解説いたします。

ハード面での打ち出し

ハード面とは、設立年、従業員数、売上、給与、待遇、休日、定着率など、会社について主に数値やデータで表せる定量的な面を指します。例えば、「創業100年、安定性は抜群です」「未経験から月収50万円が目指せる」などと訴求します。読み手に伝えやすく、読み手からしても理解が得やすいという特徴があると言えるでしょう。極端なことを言えば、求人企業が「強い」数値を持っているのなら、その数値を単に提示することで、求人広告としては事足りることも十分にあり得るのです。

一見非常に簡単に求人広告が作れそうですが、注意点が3つあります。1つめは何をもって強い数値とするかということです。上記の例に「創業100年」とありますが、100年という数値は業界によっては長く感じられないケースもあります。具体的には、酒造、製菓、旅館、建築などでは100年以上の歴史を持つ企業の割合が多いです。また、「月収50万円」も未経験者はともかく、経験者をこの額で雇う気か、という意見が出てくることもあるでしょう。この数値は本当に訴求点になり得るかという判断が必要で、求人に関する一定の知識や経験が要されます。

2つめは差別化が図りにくいということです。本当に他の企業が持ちえない突出した数値なら差別化が図れ、打ち出しにすべきですが、そうした数値とはなかなか出合えないのが実情です。例に挙げた「創業100年」「月収50万円」という企業は少なからずあるでしょうし、一時期「年間休日120日」「残業月10時間未満」「定着率9割以上」「研修期間2カ月」などが求人広告を賑わせましたが、そうした数値が希少価値が高かった時はともかく、賑わせ始めたら差別化にはなりません。単に一つの数値を見せるだけは訴求にならないことがほとんどです。多くの場合は、「月収50万円」に「未経験」という要素をプラスするなど、数値の「見せ方」に工夫が求められます。

3つめは、強い数字はそうそう出てこないことです。実際のところ、ハード面で打ち出して、他としっかりと差別化ができるのは、ニッチ業界を含め業界ナンバーワンの企業くらいです。「年間120日」のように最初のうちは特異性を保っていても、すぐに陳腐化してしまいます。特に有料求人に出稿するほど好調な企業は、どこも似たり寄ったりの施策を取っており、ハード面での訴求は簡単なような簡単ではないというのが現状になっています。

ハード面はどうしても数値の勝負、比較に陥ってしまいがちです。つまり、より上位の数値を持った企業に転職者が簡単に流れていく事態を招きます。月収50万円と60万円なら、どちらがいいか一目見れば誰でもわかります。この意味で、ハード面での訴求は大きな困難が伴うとも言えるのです。

ソフト面での打ち出し

ソフト面とは、仕事内容、経営理念、一緒に働く仲間、社風など、数値に置き換えるのが難しい、定性的な側面を指します。ハード面に比べると、企業ごとの特徴が出やすく、その企業らしさを伝えるのに非常に向いています。突出した数値を持っていなくても、転職者への訴求は十分に可能なのです。ソフト面は数値などで換算できない分、言葉(コピー)や画像(写真)などで伝えるしかなく、作り手の力量が問われます。ハード面以上に工夫が求められますし、十分な取材をしないと作成できません。

容易に想像つくと思いますが、「やりがいのある仕事です」「良い仲間たちがいます」などと書いても、素直に受け取ってはくれないでしょう。むしろ書けば書くほど怪しさを増す結果となってしまいます。ソフト面の本当らしさを伝えるのには直接的な言葉はあまり適しておらず、取材して知ったこと、感じたことを表現することが求められます。例えば、仕事にやりがいがあるのなら、具体的にどんな仕事をして、どんな時にどんな理由でやりがいを感じるのかを伝えます。それも、同じ職種の場合は、だいたいどの企業でも同じような仕事のやりがいが出てきます。それをそのまま書いてしまっては、せっかくソフト面で訴求しているのに、差別化が図れない結果となってしまいます。

当然のことながら、ソフト面で打ち出すにも知識あるいは経験が求められます。このやりがいは他でもよく聞く、一緒にいる仲間の良さはこの表現では伝わらない、などの判断ができなくてはなりません。また、ソフト面とハード面を無理に切り離して考える必要はありません。給与は仕事のやりがいの一部でしょうし、定着率の高さは一緒にいる仲間の良さを表す一部と言えるでしょう。肝心なのは両者のバランスです。ハード面に偏り過ぎるとただの求人業になりますし、ソフト面に偏り過ぎると地に足のつかない絵空事のようになります。マーケティングデータなどの影響で、打ち出しを探す時にハード面に偏り過ぎることも少なくないので、バランスがますます重要になると感じています。

理念を訴求点とする求人広告は増えると予想

ソフト面のうち、今後注目度が高まると考えられるのは経営理念あるいはそれに準じるビジョン、バリュー、パーパスなどだと考えられます。経営学のベストセラー『世界標準の経営理論』(入山 章栄)によれば、不確実性の高い現代においてもっとも重要なものの一つが納得性で、経営陣以下一同が自社の理念やビジョンに納得し、理念やビジョンに基づいて事業を展開することが求められると強調されています。対して、もっともやってはいけないのが、正確な分析に基づく将来予測で、そもそも不確実性の高い時代に将来予測など困難で、正確性より納得性だと断言しています。また、グローバル企業の多くは従業員を納得させる仕組みを取り入れていることが言及されていました(専門的にはセンスメイキング理論と言います)。

こうした状況を鑑みると、理念系の打ち出しは増えていくのではないかと予想できるのです。実は求人広告では一時期、企業理念を強く打ち出すことが流行していました。長続きはしなかったのですが、その理由は、企業理念を重視する企業が多くなかった、企業理念に共感して働こうとする求職者が少なかったなどが考えられます。さらにつけ加えるなら、企業理念の打ち出しは何となく宗教臭くて敬遠された、ということが考えられると推測しています。

あくまで個人的な感想ということを強調した上でお伝えすると、日本では宗教あるいは宗教的なものに対する嫌悪感が強くあり、企業に限らず団体が、その構成員に対し一つの理念の基づいた行動を取らせることを非常に敬遠します。極端なことを言ってしまえば、「あそこはみんな同じことを言っている。気持ち悪い」となるわけです。みんなが同じことを言うのは、ある意味で、団体としての一つの理想形ですが、とにかく気持ち悪く映るのです。

他方、経営理念を従業員に労働を強いるために利用していた側面があることも見逃せないでしょう。一部のブラック企業などで横行していた手法で、経営理念を掲げながら残業や休日出勤などを強制していました。例えば、「顧客第一主義」を掲げ、顧客のためだからと労働を強制します。ただし、上司や経営陣が見ているのは顧客ではなく業績だったのは明らかでした。経営理念は強制労働のための単なるお題目で、このような経営理念に誰も納得するはずがありません。こうしたこともあり、経営理念を掲げる企業=ブラック企業の図式が、何となく出来上がっているのではないかと感じています。

大前提として、上記にもある通り、経営理念やビジョン、バリュー、パーパスなどは「経営陣」以下一同が納得している必要があります。経営陣がお題目として都合よく利用している理念に誰も共感するはずがないのでしょう。求人広告での理念打ち出しは今後増えると考えられますし、理念は求人広告以前に企業が必ず持つべきものとされています。理念をどう言葉にしてどう社内に浸透させるか。そして、それをどう外部に伝えるか(例えばどう求人広告として表現するか)が今後の課題となると思われます。

まとめ

・求人広告の打ち出しのパターンは大きく分けて二つある。
・定量的なハード面と定性的なソフト面。
・ハード面に偏り過ぎるところもあるが、両者のバランスが大事。
・今後は「理念打ち出し」が増えると予想される。
・ただし、求人の前にそもそも理念を言葉にして社内に浸透させる必要がある。

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