【コラム】失業手当(雇用保険の基本手当)の手続きなどについて

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前回の記事で失業手当の話題に少し触れました。この機会ですので、失業手当について解説したいと思います。人材(労務)関連の仕事をしていても、転職などの経験がなければ、意外と失業手当の仕組みや手続きは知らないことが多いのではないでしょうか。自身が失業手当をもらう立場になるかどうかは別にして、情報を必要としている人にお伝えいただければと思います。

失業手当を受ける条件

一般に失業手当と言われる手当は、雇用保険では基本手当と言われます。雇用保険は、労働者が失業した時をはじめ、就業(雇用)が困難になった時、教育訓練を受ける時の援助(給付など)を行います。さらに失業時は、基本手当以外にも条件を満たせば支給される手当がいくつかあります。細かく説明するとややこしくなるので、まずは基本手当を中心に見ていきたいと思います。

大前提として、基本手当には受給資格があります。失業すれば誰でももらえるというものではありません。失業とは離職しただけの状態をいうのではなく、積極的に仕事に就こうという意志と、働ける能力があることが求められます(失業についてはこちらも参考にしてください)。従って、離職後、専業主婦(主夫)になるなどの理由で仕事に就く意志のない者は受給の対象となりません。また、起業する者、個人事業主になる者、フリーランスになる者も対象とならないことになっています。その上で、受給資格の要件は以下のようになっています(下記以外にも細かなものはあるのですが、ここではもっとも一般的なもののみの記載とさせていただきます)。

・直近(離職日以前の)2年間で12カ月以上被保険者であったこと(雇用保険に加入している会社で働いていたこと)
※ただし、会社都合の離職の場合は、1年間で6カ月以上。会社都合の離職については後に詳述。

上記の場合の1カ月は、離職日からさかのぼって前月の応当する日までです。こう書くとややこしいですが、例えば、4月10日に離職した場合、3月11日~4月10日までを1カ月として、同様にその前の月も考えていくということです。この1カ月の間に11日以上勤務していれば「被保険者であった1カ月」となります。なお、休みであっても有給休暇や休業手当のついた日は勤務日として計算します。数年間の勤務実績のある人なら問題なく受給資格はあると思いますが、勤務期間がギリギリ1年しかない人は要注意なので、慎重に離職日を決めるようにしてください。

基本手当は、いつどこでもらえるか

基本手当は公共職業安定所(ハローワーク)に申請することで受給できます。ハローワークは、基本手当をもらう・もらわないを別にしても、離職した場合には基本的には足を運んでおくことをおすすめします。基本手当以外にも給付を受けられることがあるからです。

具体的な申請の仕方は、管轄の公共職業安定所(住まいの近くにあるハローワーク)に行って、離職票を提出して求職の申し込みをします。離職票は離職した会社から送られてくるはずです。会社には離職票の発行の義務があるので、もし手元にない場合は問い合わせてみてください。

これで「自分は受給資格を満たしているし、すぐに基本手当がもらえる」となればいいのですが、そうはならないのが少々やっかいなところです。受給には「失業の認定」を受ける必要があります。求職の申し込みをした日(上記の離職票を出した日)から4週間(28日)後に失業の認定を受けます(これを認定日と言います)。なお、認定日はやむを得ない理由がない限り、変更は認められないという絶対的なものです。また、求職の申し込みをした日以降の7日間は「待機」と呼ばれることを覚えておいてください。待機は「失業をしている日」でなくてはならないので、この間にアルバイトなどはしないほうが無難です。

さらに、「給付制限」という期間があり、自己都合で離職した場合は、原則3カ月の給付制限を受けます。つまり、求職の申し込みをして失業の認定を受けても、その後3カ月間は基本手当は支給されないということです。ですので、初回の受給は上記の待機7日間+3カ月以降となります。また、給付制限がなくなってすぐに給付されるのではなく、給付制限がなくなった後の認定日を待たなければならなことに注意が必要です。受給まで実は先の長い話なのです。

自己都合と会社都合

上記で、自己都合で離職した場合はとありますが、自己都合とは、自分から会社を辞めますと申し出る場合のことです。履歴書などには「一身上の都合により退職」と書くことになります。会社の経営が傾いたので先を見越して辞めた、という場合も自己都合になります。

一方、会社都合の場合とは、会社の倒産や事業所の廃止・移転などに伴う退職です。また、労働条件が著しく異なる、離職前の6カ月で1カ月当たり100時間以上の時間外労働または休日労働があった月が1カ月以上あったなどの理由で辞める場合も会社都合です。退職勧奨も会社都合に当てはまるはずです。ただし、早期退職優遇制度やそれに類するものに応募して離職した場合は自己都合となります。

会社都合の場合は、給付制限は受けません。つまり、3カ月の待機期間なく需給可能です。他にも、給付日数(後で詳述します)が変わるなどがあるので、基本手当を受ける上では、自己都合か会社都合かは大きなポイントです。離職票には「退職理由」が記載されていますので、確認してみてください。「互いの認識が違っていた」となると大きな問題ですので、離職前に労使双方で確認することが望ましいでしょう。

基本手当の支給額は

気になる基本手当の支給額(日額)は、離職前の給与(賃金日額)と所定給付日数で変わってきます。まず賃金日額はこれを算出するために、会社を辞める前の最後の6カ月に支払われた賃金総額を180で割ります。単純に「6カ月分の給与の総額を6カ月の日数(180日)で割る」と考えればいいでしょう。ただし、この場合の給与にインセンティブやボーナスは含まれません。話を単純にするために、30歳の人が直近6カ月で毎月30万円をもらっていたと仮定して、「30×6÷180=1万円」となります。

ただし、1万円がそのまま基本手当の日額となるのではありません。算出された賃金日額に100分の50~80の給付率がかけられます(60歳以上65歳未満は100分の45~80)。要するに、賃金日額の45~80%が手当の日額となります。給付率は賃金日額によって変動し、1万円の場合は100分の50~80がかけられることになっています。つまり、賃金日額が1万円の場合、基本手当の日額は「5000~8000円」となります。

所定給付日数とは、基本手当を受けることができる日数を指します。つまり、

「給付日額×所定給付日数」

が基本手当の額と言えます。所定給付日数は、自己都合で会社を辞めた場合は90~150日、会社都合の場合は90~330日と定められています(障害者など就職困難者はいずれの場合も150~360日)。また、所定給付日数はざっくり言うと「辞める前に会社で働いていた年数」で決まります。算定基礎期間は先の受給要件で出てきた被保険者期間と若干異なり、被保険者期間は給与を受けていることが求められますが、算定基礎期間では不要です。つまり、産休などで給与がもらえない期間も算定基礎期間に含まれます(産休中も収入があったという方もいると思いますが、支給は健康保険などからされており、給与ではないことが多いです)。

説明が細かくなって恐縮です。わかりやすく上記の賃金日額1万円の例を使って基本手当の総額を計算すると「給付日額5000~8000円×所定給付日数90~150日(自己都合の場合)=45万円~120万円」となります。一見多そうに感じますが、最大でも150日で120万円です。また、基本手当は一時金として一度に支給されるのではなく、認定日ごとに前日まで日数分の手当、つまり概ね28日ごとに28日分ずつ支給されます。退職前の収入と比較すると、どうしても少ないという気持ちは否めないでしょう。

基本手当以外にも、利用できる手当がある

転職先をいち早く見つけたほうが良さそうだけど、もらえるものはもらっておきたい、と思うのが人情というものです。ただ、それでは雇用保険の本義から外れてしまい、そうした矛盾した事態を未然に防ぐためにあるのが「再就職手当」です。再就職手当はその名の通り、基本手当の受給資格者が正社員として再就職するなど、安定した職業に就いた場合に支給されます。ただし、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あるなど、いくつか支給要件はあります(その他は長くなるので割愛します)。

具体的な支給額は、

基本手当の日額×まだ支給を受けていない給付残日数×10分の6(給付残日数が3分の2以上の場合は10分の7)

です。「あれ、10分の6または10分の7をかけるということは、結局のところ総支給額は減るのでは」と思ったかもしれません。結論から言うと、総支給額は減ります。このため、もちろん、基本手当を満額もらうまで入社日を引き延ばすという選択もしようと思えばできます。しかし、それは裏を返せば再就職先から給料を受けるのを先延ばしするという選択です。働かないで収入を得るのは魅力的ですが、基本手当は十分な収入とは言えないことも多いので、よく考えて判断するといいでしょう。なお、再就職手当は開業・起業した場合でももらえることがあります。また、再就職したが賃金は前の会社より下がってしまった場合には、一定の補償を受けられる「就業促進定着手当」も用意されています。

このほか、就職の際の引っ越し代などを支給する「移転費」就職活動中の面接の交通費を補助する「広域求職活動費」、求職活動中に保育サービスなどを利用した場合に受けられる「求職活動関係服務利用費」などがあります。これらはいくつか要件があり、「ハローワークが紹介した職業に就くため」などの縛りのあるものも多いですが、調べてみると雇用保険には意外と活用できそうなものがあるのです。

私は転職の経験を持ち、ハローワークにも出向きました。しかし、こうした制度をまったく知らずにいたので、知識をつければつけるほど、もっと上手に利用したかったと思うばかりです。ついつい自分とはあまり関係ないことだと思ってしまいがちで、あまり調べようともしませんが、知っていると知らないとでは大きな違いがあります。なんとなくそういう制度があるということを知っているだけでも、必要に応じてハローワークに問い合わせができます。自分自身が転職する場合はもちろん、もし周囲に離職の決意をした人がいるなら、意外と利用できる手当・制度あることをお伝えいただければと思います。

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