求人広告(採用コンテンツ)、超作成方法⑨
「求人広告(採用コンテンツ)、超作成方法」①~⑧までで「誰が・誰に・何を・いかに」の「誰が」と「誰に」について解説してきました。ここからはいよいよ「何を」つまり、求人広告の訴求点、打ち出しについて解説していきます。
※本ページは「求人広告(採用コンテンツ)、超作成方法」でお送りしているシリーズの第9回です。
コンセプトはある程度、自然に導き出される。
「何が」は訴求点や打ち出しと言われます。「何が」に来るまで随分、時間がかかりました。しかし、ここからは話が速いです。なぜなら、「誰が」と「誰に」が明確になったら、「何が」は自動的に導き出される性質があるからです。ある程度、自動的に広告のコンセプトもできてきます。もしおぼろげながらにも導き出されないとしたら、自社やターゲットの理解がまだまだ甘いと考えたほうがいいでしょう。今一度、自社とターゲットの理解に時間をかけるべきであり、特にターゲットについては再考が必要です。
これまで長い時間をかけて「誰が」と「誰に」の話をしてきたのは、訴求点や打ち出しはある程度、自動的に導き出されるものだという感覚を持ってもらいたかったからです。ともすると、制作(特にキャッチコピーを中心とするライティング)に取りかかる時、いきなり訴求点をどうするかと考えることがあるのではないでしょうか。文字通り、「何を書こうか」と取り掛かってしますのですが、これはいけません。特に中途採用向けの求人広告(採用コンテンツ全般)を手がける場合は、ターゲット設定を抜きにしてはあり得ないと考えたほうがいいのです。
既にお伝えしたように、中途採用はその性質上、新卒に比べてターゲットが限定的です。「今このタイミング、この事業に必要な人材はこういう人物像だ」といういわゆる要件定義を明確にしなければならないのです。また、ターゲットが明確だからこそ、訴求点もまた明確になるのです。自社(求人企業)とターゲットの深い理解から導き出された訴求点(コンセプト)には必然性が感じられます。無理がありません。そうして作られたコンセプトはとても美しく、どこを切り取ってみても、論理的で理路整然とした設計・構成になっています。もちろん、狙った人材の採用へと結びつく効果が期待できます。一方、「今はこういうのがはやりだから」「これと同じように作ればうまくいくと聞いたから」とほとんど思考停止状態のコンセプトから作られた求人広告は、無理が感じられ、どこかちぐはぐとしているものです。何より、その会社らしくありません。こうした求人広告はけっこう目にします。どこかから持ってきたキャッチコピーやコンセプトをそのまま当てはめて、失敗するケースです。
また、ごく稀に、しっかりと自社の分析をして、ターゲットを設定し、採用要件を固めたはずなのに、訴求点がずれていることもあります。「自社は変革期に入っているのに、人材には一つのことへの追求を求め追求できる環境があることを訴える」などはっきりとズレがわかる場合もあれば、「自社の特徴と強みは安定性で、求職者に求めることは定着して将来のリーダーになることを期待しており、訴求点として挑戦できる環境を伝える」などズレていないようでズレている、というケースもあります。後者は「安定していることが強みなのに、なぜ挑戦できる環境が訴求点なのか」という疑問がわいてくるでしょう。自社の求人広告がそのような状態に陥っていないか、ぜひ一度、見直してみてください。
訴求の仕方は、シンプル&リッチコンテンツ。
求職者に何を伝えるか、ここで制作者(コピーライター)は訴求内容を一点に絞り込みます。時に「一点訴求」と言われることもありますが、やや誤解を招きやすい言葉と言えるので、私はクリエイティブ・ディレクターの佐藤達郎さんが提唱する「シンプル&リッチコンテンツ」と言うことにしています。訴求点を一点に絞るのは同じですが、その一つのシンプルな訴求点をあらゆる角度から表現し、全体としてはリッチコンテンツにするのです。
どういうことでしょうか。具体的に説明します。例えば、訴求点を「長期にわたり働ける」に決めたとします。その上で、取材などで収集した情報を「長期にわたり働ける」につなげていきます。具体的には定着率が高いという事実はもちろん、業界の老舗で歴史があること、黒字経営を続け安定性が高いこと、給与が高いこと、待遇が充実していることなどを「長期にわたり働ける」に帰着させるのです。黒字経営だから安心して長く働ける。待遇が充実しているから長く働くには最適な環境、などと表現していきます。
この時コツとしては、単に事実を述べるだけでなく、その背景や理由、結果を伝えることです。例えば、「給与が高い」はそれだけ述べれば単なる事実の表記に過ぎませんが、「社員には長期にわたり活躍し、豊かな毎日を送ってほしいので給与は高水準にしてる」とすれば、納得感が生じるでしょう。同時に社風や会社の人材に対するスタンスも伝えられます。仮に取材を通じ「以前は給与はそれほど高くなかったが、企業は人という設立当初の原点に立ち戻り、給与の見直しを図った」という事実が出てくれば、書きようによっては企業の社員に対する思いが伝わり、ターゲットが「長期にわたり働ける」イメージをより強く持つ可能性があります。黒字経営はこれそのもので「長期にわたり働ける」イメージを想起させやすいものですが、「現状は既に十分な安定性があり、今後もニーズは途切れず将来の継続的な伸びも期待できる。安心して働ける環境だ」と情報を付け加えれば、そのイメージはますます強固なものとなります。もちろん、情報を付け加えるためには、取材で事実を拾う必要があります。取材はとても大事です。
いかがでしょうか。シンプル&リッチコンテンツについて、何となく感じがつかめたでしょうか。シンプル&リッチはやや耳慣れないかもしれないので、「テーマを一つにする」という言い方のほうがいいかもしれません。論文や文芸作品を書く場合でも、テーマは一つに絞るでしょう。その一つのテーマを伝えるために、言葉を尽くすはずです。求人広告でもその点はまったく同じなのです。テーマを一つにする、シンプル&リッチコンテンツ、の考えを知らないと、求人広告、特にキャッチコピーはとても作りづらいものになります。逆に知っていれば制作がスムーズに進むので、シンプル&リッチコンテンツもまた制作上の重要なテクニックです。
少し話がそれるかもしれませんが、よもやま話として。一転訴求は求人業界、その中でも中途採用の領域では長らく使われている言葉で、「求人広告では一つのことだけしか言ってはいけない」と解釈されてきました。訴求点が高収入なのだから、高収入のこと意外は言ってはいけない、訴求点がブレる、などという指導もあったのですが、はっきり言ってこれは誤った解釈です。誤った解釈のまま後輩に指導する制作者(ライター)が少なからずおり、その教えを忠実に守るライターもいました。多くのライターがどこかで「なんかおかしい」と気付くのですが、なぜか後輩には「一点訴求」を要求するケースも見受けられました。「訴求点を複数にすると効果が薄れる」というのは間違いではありません。訴求点は一つでいいのですが、その訴求の根拠となる要素はたくさんほしいのです。テーマを一つに絞り、シンプル&リッチコンテンツの考えで、訴求点に厚みを持たせます。
以上、「何が」についての基本的な考えを示してきました。次回からは、より具体的に「何が」の決め方を解説していきます。
まとめ
・自社とターゲットへの理解が深まれば、訴求点も自然と決まる。
・ターゲットと訴求点が合わなかったら、どちらかをまたは両方を再考する。
・訴求点は一つに絞る。
・一つに絞った後は、リッチコンテンツでその内容を伝える。
次回第10回は⇒こちら