【コラム】2020年の中途採用の動き、求人広告に求められること

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2020年はこれまでの当たり前を大きく変えた一年でした。通勤、対面での会議はデファクトスタンダード(事実上の標準)の地位を大きく揺さぶられ、マスクの着用、手のアルコール消毒が日常の風景になっています。コロナ禍は来年以降も続くと予想されます。より正確には新型コロナウイルスが存在することは避けられない事実となったため、仕事や生活のあり方が元に戻ることはもはや不可能で、いわゆるニューノーマルの時代になったと言えます。この年にあった変化は当然、採用にも大きな影響を及ぼしました。具体的にはどのような変化があり、今後どのような展開が予想されるでしょうか。主に求人広告を媒介にして中途採用の現状を振り返りながら、これからの動きも同時に探ってみたいと思います。

伸び続けていた広告出稿数が一転して減少

KCC求人レポートでお伝えしている通り、求人広告の出稿数は3月を境に落ち込みました。それ以前の2019年に至る数年にかけては、求人バブルと言える状況で、出稿数は伸び続けていました。コロナ前を振り返ると、求人倍率は2009年を底に年々伸び続けており、2017年4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.48と、バブル期のピークだった1990年7月(1.46倍)を上回り、2018年まで上昇し続けます。2019年は前年を下回ったものの、高止まりを続けていました。厚生労働省の令和元年版労働経済の分析のテーマは「人手不足の下での『働き方』をめぐる課題について」でした。人手不足をどう解消するかが2019年までの大きなテーマだったことが、はるか昔のことのように思えてきます。

2020年になると状況は一転し求人倍率は下がり始めした。ただし、1~3月についてははっきりコロナの影響と言えるかどうかは不明です。この点、注意が必要でしょう。コロナと関係なく人材へのニーズは落ち込みを見せていた可能性があるからです。人材業界では、この好調はいつまで続くのかという声は以前から挙がっていました。人材業界は景気の影響をダイレクトに受けますので、景気の先行きに敏感というか気にかけます。広告出稿に関しては、2018~19年にはオリンピック需要も収まり落ち着くのではないかとの声もありました。しかし、予想に反し18年19年と伸び続け、「オリンピックが終わるまでは好調だろうがさてその後どうするか」などということも言われていました。それが急速に状況が変わり、どう対処していいのかわからない事態が現在に至るまで続いています。

求人数の減少以外にはどんな変化があったか

ここで一度、新卒採用でどのような変化があったかに触れたいと思います。新卒採用を見ることで、求人に関する全体的な変化を把握したいと考えるからです。新卒採用でもっとも大きな変化は、オンライン面接の導入・広まりと言えます。オンライン面接そのものは、遠方に住む学生との出会いの創出などの観点から徐々に導入の動きが広がっていました。そのスピードは緩やかでしたが、コロナ禍で一気に広まり、大手企業を中心に面接はオンラインで行うのが半ば当たり前になったのです。

オンライン面接が広まり、その有用性が評価されると共に新たな課題も見つかりました。よく議論されることとしては、言語情報はよく伝わるが、非言語情報が伝わりにくい。あるいは、無駄な情報ではあるが、相手を知る上での手がかりとなる情報が得られない、などがあります。別の側面から言うと、言語を介して必要最低限の情報は過不足なく伝わるが、感情や雰囲気などは伝わりにくいということです。なぜ感情や雰囲気が伝わらないことが議論されるかというと、採用するほうもされるほうも、意外と言語以外の情報を重視していることに気づいたからでした。

翻って中途採用はどうだったかというと、オンライン面接が広まったということはありません。中途採用は新卒と異なり、大勢を一度に集めるということは少なく、いわゆる「密」を回避する必要性がありませんでした。また、新卒採用はスケジュールの関係で自粛期間中にも採用活動を進める必要がありましたが、中途の場合は時期をずらすなど柔軟な対応が可能です。そもそも中途採用はテレビ会議システムなどを用いて面接を行うことが、従来からありました。このため、コロナ禍で一気に広まったとは言えないと考えられます。

面接が対面からオンラインに変わったなど、様式の変化は今のところそれほど表面化していませんが、一方で、採用対象者に関する質的変化は見られました。全体的な変化とまでは言えないものの、求職者に一定の質を求める傾向が出ています。端的には、未経験採用が減り、経験者採用が増えたということです。ただし、コロナの影響をあまり受けず人手不足感が続いている現場系の職種などでは、未経験を積極採用しているケースも多くあります。

求人広告作成における変化

ここで、求人広告の作り手側の視点で、採用に起こっている変化を述べたいと思います。採用というよりは、正確には求職者の受け取る情報の質的変化です。これを知ることで、今求職者に何を伝えるのかが見えてくると思います。求人広告あるいは求人ページなど採用コンテンツの作り方もしくは考え方も変わってくるでしょう。

先ほど、中途採用ではオンライン面接はあまり広まらなかったと伝えましたが、一方で、オンラインによる取材は急増しました。これまでも電話取材、すなわち求人企業への訪問や採用担当者との対面をすることなく、求人広告を作成する機会はあるにはありました。その件数は全体から見れば少数だったのですが、コロナ禍でzoomなどを用いた、非対面の取材が一気に増えたのです。

一見、それほど重要な変化だとは感じられないかもしれません。なるほど、確かにzoomで取材を行っても、必要な情報は基本的にすべて得られます。さらには、取材の様式の変化について対応すべきは制作者で、求人広告を出稿する側の企業はオンラインに対する多少の慣れは必要になるかもしれないが、求職者にとってはまったく関係のないことと考えるかもしれません。しかし、そう断ずるのは早計です。取材の様式が変化することで、伝えられる情報の質も変化するからです。

なかなかピンとこないかもしれませんが、上記でオンラインの面接(対話)は「言語を介して必要最低限の情報は過不足なく伝わるが、感情や雰囲気などは伝わりにくい」とあったのを思い出していただきたいと思います。これまでは求人企業に訪問し採用担当者や採用部署の責任者やスタッフ、あるいは経営陣と直接話をすることで、求人広告を含む採用コンテンツを作成する上で必要な情報を得ると共に、その会社の社風や雰囲気、一緒に働くスタッフの人となりを(おそらく無意識のうちに)つかみ取っていました。

それらの情報を求人広告などにうまく反映できるかどうかは、制作者の力量によるところもありましたが、少なくとも伝えようとはしていたはずです。また、有料の求人広告を中心に、編集後記などの形で取材者目線による客観情報、多くの場合は社風や社員の人柄を伝えることに努めてきました。これを最初に行ったのはエン・ジャパンだと記憶していますが、他の媒体も追随してきています。つまり、取材者の目線で社風なり人柄なりを伝えるのは一定の価値があると認められているということです。

しかし、取材がオンライン化されることで、雰囲気や人柄をつかむのも伝えるのも困難になりました。この結果、求職者は雰囲気や人柄を十分に理解できないまま応募あるいは入社の判断をするケースが増えると予想されます。中途採用ですので、新卒ほどに重視はされませんが、若手層を中心に気にする人がいるのも事実です。会社の雰囲気や社員の人柄をどう伝えるかは、今後の求人広告の課題の一つだと考えられます。

なお、少しテクニカルな話をすると、オンラインで取材をする場合、取材に関わる全員が別の場所にいると、文字通り距離感が生まれ必要な情報のやり取りに終始することがほとんどとなる傾向があります。一方、取材先(現地)に営業担当など相手をよく知る人がいると、雰囲気がほぐれるように感じます。おそらく、取材者と取材対象者が初対面でも、取材対象者にとって既知の相手(例えば営業担当)が側にいることで、ある程度リラックスした雰囲気が作れるのでしょう。これに加え、取材者が求人企業の採用担当者と媒体側の営業担当などとのやり取りを見ることで、会社の雰囲気や社員の人柄が感じ取れるようになるのだと推測できます。参考までに。

求人広告・採用コンテンツの今後の展望

オンラインでの取材が続くと仮定した場合、上述したように求人広告や採用コンテンツを通じ会社の雰囲気や社員の人柄をどう伝えるかが、一つの大きな課題となるでしょう(この点については、新卒採用のほうがより大きくクローズアップされることが予想されます)。

解決策としては、まずは単純にテキストを増やすことが挙げられます。増やすというよりは、これまで伝えることができていた雰囲気や人柄を今後も伝えと言ったほうが適切かもしれません。そのためには、取材する側の工夫が必要になるでしょうし、取材される側も何らかの手段で自社の雰囲気をオンラインでも伝えるようにしたほうがベターと言えます。また、中途採用でもオンライン面接が広まった場合、求職者にとってテキスト以外を取得する機会が減る一方となります。その場合は、テキストを増やさざるを得ないでしょう。雰囲気や人柄も含め、テキストを通じて情報を伝えることがますます重要になると予想されます。

このほか、テキストの代替案とも言えますが、ビジュアルすなわち写真で雰囲気を伝える手段があります。これまでも求人広告で写真は重要な役割を果たしてきましたが、今後はより重要性が増すと捉えられます。合わせて、動画が重要なキーとなる可能性もあります。特に若手層では動画での情報取得を重視します。世代が上になると、動画からの情報取得を軽視しがちです。しかし、動画を見て応募を決めたという声も挙がっています。動きの速い一部の企業はYouTubeチャンネルを作成し効果を上げています。考えを切り替える必要が生じています。

テキスト・写真・動画の充実は単に採用に役立つだけのツールではありません。今後、採用から配属、実務までがすべてオンライン(リモート)で行われる可能性も否定できなくなっています。そうなると、会社へのエンゲージメントがどうしても低くなりがちです。オンラインでのやり取りで感情は伝わりにくいことがわかっており、その帰結として感情的な結びつきや親近感がわきにくく、エンゲージメントの醸成につながらずに離職しやすい状況に陥ることは十分に考えられます。

こうした状況を回避するために、自社や自社の社員を伝える定期的な刊行物のようなもの(社報など)が有用になるでしょう。社(内)報などに目を通したことはないしまったくの不要と考える意見もあるでしょう。確かに、中には惰性で作っているような何の面白みもない社報もあります。そもそも社報など読まなくても会社のことを知っている、少なくも自身の所属する部署なりチームなりには十分な知見がありました。このため、社報を読む必要性をまったく感じなかったのです。しかし、リモート環境に置かれ、会社を知る術がない人たちにとっては話は別です。会社に関する情報を得たいという欲求は強いと考えられます。もちろん、読まれるようにテキストや写真、必要に応じて動画を織り交ぜる工夫は必須です。そもそも面白みに欠ける社報がエンゲージメントを醸成するか疑問が残ります。

まとめ

2020年の中途採用を、主に求人広告の制作者の視点から総括しました。合わせて、今後の展望も述べさせていただいています。求人広告の出稿数が減り、取材の手法がオンラインに移行されつつあることは、求人広告に関わる身としては大きな変化です。このことは、単に取材方法が変わったという表面的な事象にとどまらず、これまで当たり前のようにキャッチできていた雰囲気や人柄が取得しづらくなり、その帰結として求職者が得られる情報についても質的変化が起こりつつあります。テキスト・写真・動画によるリッチコンテンツが重要性を帯びていくでしょう。このことは、採用後のエンゲージメント醸成のためにも、必要なのではないかと考えられます。

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