求人広告や採用ページなど採用コンテンツを扱っていると、ほぼ必ず仕事のやりがいを書くことになります。一口にやりがいと言っても、捉え方はさまざまで何をもってやりがいというのかと問われると、困る時もあります。この仕事に20年近く携わり、「やりがい」とは何かと考えてきましたが、捉え方として大きく2つに分けられると考えています。一つは一般的な意味でのやりがいで、世の中に流通していると言いますか、「この仕事(職種で)でやりがいと言えばこれだよね」と大まかに想像できるものです。もう一つはターゲット、つまり求職者や転職者個人にとってのやりがいで、個々の志向や体験、考えによって変化します。一般的な意味でのやりがいと同一のこともあれば、まったく異なる場合もあります。簡単に扱ってしまいがちなやりがいですが、少し深掘って何をもってやりがいと言っているのか、改めて考えてみたいと思います。
一般的な意味でのやりがい
通常、「やりがい」という時は「一般的な意味での」やりがいを指すことが多いでしょう。言い換えれば、上記でも触れた通り、だいたいの想像がつくやりがいです。例えば、営業で言えば「数字を上げる」「稼ぐ」「お客様に貢献する」などでしょうか。パッと思いつくこうしたやりがいは、まったく聞いたこともない職種だというケースを除けば、現にその仕事に携わっている人の話を聞くまでもなく想像がつくことが少なくありません。同一の仕事・職種について一度でも取材(あるいは自身が直接その仕事を経験)したことがあれば、こういう話が出てくるだろうと事前に予想できるわけです。転職サイトをのぞけばこうした「やりがい」をメインの訴求にした求人広告を多く目にすることができます。実際、転職サイトの求人広告などでよくある「仕事のやりがい」欄は、字数も限られていることもあり、個人的に感じている「やりがい」を詳細に伝えることはなかなか困難です。従って、人口に膾炙しやすい一般的な意味でのやりがいを書くことがほとんどとなるのです。
ただし、一般的な意味でのやりがいは必ずしも一職種一つとは限りません。むしろ、一つには限定されないことが普通です。上記で営業のやりがいをパッと思いつくままに3つ挙げました。取材で深掘りすればさらに多くのやりがいが見つかるでしょう。また、面白いことに、取材を進めるとその会社(職場)にいる人が共通して強調するやりがいが見つかることも多いものです。再度、営業を例に挙げますが、社員の方が口をそろえて「稼ぐこと」ということがあれば、「お客様に貢献すること」という場合もあります。話を聞いているほうは、社風が出ているなと感じます。もちろん、社風ですので何が良くて悪いということはありません。ただ、合う・合わないはありますので、仕事のやりがいから、ターゲットのセグメントも図れます。求人広告を作成する際は、取材で浮かび上がってきた「やりがい」に合わせてターゲットを設定するというアプローチを行うケースもあります。通常は求める人材に合わせてやりがいを模索しますが、「仕事のやりがいに合ったターゲットを設定して求人広告を作る」ことも可能なのです。
ただし、こうした一般的な意味でのやりがいで求人広告を作成していいのかは吟味が必要です。なぜなら、「一般的な」と敢えて断っていることからもわかる通り、「よくある話」だからです。転職サイトを見れば本当に似たようなやりがいを訴求点にしている求人広告は多いのです。このため、やりがいで訴求しようとしても差別化が図れず、応募効果も期待できないものとなってしまいます。多くの求人と同じような内容になるため、とても陳腐なものとなってしまう点も否めません。「やりがい」をメインの打ち出し(訴求点)にしようとする場合は、十分な注意が必要です。
個人にとってのやりがい
上記のような一般的な意味でのやりがいと少々意味合いが異なってくるのが、個人的なやりがいです。繰り返しになりますが、一般的な意味でのやりがいとかななる部分もあれば、そうでない部分もあります。インタビューを受けている社員の方も、あまりに個人的な話のため、遠慮して口にしないことも多いです。しかし、個人的な話に切り込んでいくのが、インタビューする側の腕の見せ所であり、うまく話を聞く出すことで、求人広告に厚みや深み、真実味を持たせることができます。また、インタビューで他ではあまり話したことをないことを聞くのは、ライターとしての仕事の「やりがい」の一つと言えるでしょう。
ここで一つ注意点があります。取材で深ぼる個人にとってのやりがいは、時として「仕事の」やりがいを離れることがあるということです。例えば、就業環境かもしれませんし、一緒にいる仲間たちかもしれません、安心して働ける会社の安定性かもしれません。さらに、そうした仕事以外の「やりがい」がその会社にいる意味や理由になっていることも少なからずあります。一般的な意味でのやりがいを念頭に置いていると、「なんでそれがやりがいになるんだ」と不思議に感じるかもしれませんが、やりがいを聞いて仕事の以外の面を挙げる方は意外と多いものです。
おそらく「やりがい」と聞かれて、「仕事の良いところ=会社の良いところ」と変換しているのではないかと推測します。そう推測すると、「会社の安定性」がやりがいになることもうなずけます。取材する側としては「やりがい」を切り口に、インタビューを受けている方がどのように会社を見ているのかがわかってくるので、とても面白いものがあります。インタビューを受けている方が転職者の方ですと、「やりがい」に対する回答が、そのまま「転職理由」や「転職する会社に求めている(た)こと」に直結します。「仕事観」や「会社観」の一端が垣間見れる瞬間とも言えるでしょう。
やりがいは単純ではない
これまで見てきたように、やりがいと一口に言っても、少なくとも一般的な意味でのやりがいと、個人的な意味でのやりがいがあると言えます。両者は似ているようで異なる部分も多々あります。特に個人が何をもってやりがいと感じているかは、本当にさまざまです。時として「仕事の」やりがいを外れることがあることにも十分に注意が必要でしょう。
また、「仕事の」やりがいは一職種に一つとは限りません。3つも4つも出てくのがむしろ普通です。同時に単純には「仕事の」やりがいではくくれないケースもあることも覚えておいてください。上記の「安定性」ははっきりと「やりがい」とは言えないと思いますが、例えば「一緒に働く上司や仲間」はいかがでしょうか。上司や仲間と一緒に働くから仕事が面白いと感じている人にとっては、上司や仲間と働くことそのものが間違いなく「やりがい」だと思いますが、それは「就業環境」ではないのかという意見も出てくるはずです。よく入社理由のアンケートなどで、選択肢の一つとして「仕事のやりがい」が挙げられているケースがありますが、もしかしたら、ほとんどの意味のない選択肢なのかもしれません。やりがいの守備範囲が想像以上に広いからです。
取材で「仕事のやりがいは何ですか」と安易に聞いてしまうことも多々ありますが、「やりがい」という言葉の背景には、答えている方の「仕事観」や「会社観」が見え隠れすることに十分に注意を向けなければならないでしょう。ややもすると、単に決められた項目を埋めるためだけに聞いてしまう「仕事のやりがい」ですが、話の持っていきかたによっては発展的な内容を聞けることはぜひ覚えておいてほしいと思います。
今回コラムと言えどもやや取り留めもない内容になってしまいました。最後とまでお読みいただき、感謝申し上げます。