求人広告の給与表記の方法。固定残業代の明記は必須

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現在、新型コロナウィルスの影響で経済活動が止まり、新規の求人が発生しにくい状況にあります。しかし、今後一切の求人活動が行われないということはまず考えられないでしょう。そこで今回は、求人広告を出稿するに当たり、必要な知識をご紹介したいと思います。特に質問されることの多い「給与」の書き方について触れたいと思います。

固定残業代の明記が必須になった

給与についての表記は、非常に問い合わせの多い項目です。なぜ頻繁に問い合わせがあるのかというと、近年、給与表記に関する基準が変わったからです。具体的には2015年10月1日に若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)が施行され、同法には下記のように記されています。

固定残業代(名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金)を採用する場合は、固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うことなどを明示すること。

つまり、給与に固定残業代が含まれる場合、例えば下記のように表記しなければならなくなったのです。

月給24万円
※上記には固定残業手当6万3000円(45時間分)が含まれます。
※超過分は別途支給します。月給26万~32万円
※固定残業手当5~7万円(30時間分)を含む。
※超過分は別途支給。

ポイントは、

① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

となります。同法は「事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者」が「青少年の募集や採用に当たって講じるべき措置」としており、要するに基本的には守らなくてはいけないものですので、各媒体社から出稿される求人広告もこれに準じているのです。「最近やけに給与の書き方が細かくなったな」と感じたとしたら、その背景には若者雇用促進法があったのでした。

固定残業代の明記は求職者への適切な配慮

以前の給与の書き方はかなりざっくりしたものでした。今では基本的には不可となりましたが、「月給26万円以上(一律手当含む)」という表記をよく見かけました。「26万か。まあまあだな」と思っても、入社に当たり労働契約を確認すると「一律手当=固定残業代8万円(60時間分)」などという、今の基準で見れば腰を抜かしそうな内容が散見されました。ご存知のように、「もらえる額は同じだから、内訳はなんでもいい」というのは危険な発想です。当然のことながら、固定残業代を除いた基本給が変われば、賞与や残業代が大きく変わってくるからです。

さらに、固定残業代の考え方も、一昔前と現在では違っているように感じます。一昔前は最下限、一方で現在は上限で設定することが多いのではないでしょうか。つまり、少なくとも固定残業代分はきっちり働いてもらおうという考えから、どんなに働いても固定残業代分の残業時間は超えないでほしいという企業側の意思表示に変わったと言えるのです。また、異様に高い固定残業代を設定する一部の企業は超過分の残業代など払う意志はなく、実際支払われることはありませんでした。こうした企業が「ブラック企業」との誹りを受けたのもまた、ご存知の通りです。

さらに、2000年前後ころだったように思えますが、そのころ、「退職金や家族手当、住宅手当などを廃止し、基本給に含める」という給与が増えました。当時は各種手当はともかく、退職金はあって当たり前と考える人も多かったので、退職金の有無を確認することをせず、だいぶ後になって愕然することが少なくありませんでした(今でも大手や昔ながらの企業に勤めている人は、退職金や各種手当はあるのが当たり前の感覚になっていることが見受けられます。転職に際して確認が疎かになりがちですので要注意です)。

質の悪いことに、と言ってしまいますが、そうした企業の給与は額面上は非常によく見えました。このため、額面上の給与を強調して人材獲得を行うことがままありました。しかし、総額の年収で見た場合、固定残業代がなく、各種手当が充実している企業のほうが、はるかにいいケースがあり、結果、給与に関する知識が乏しい層、どうしても若年層になってしまいますが、が知らず知らずのうちに誤った選択をすることが発生していました。

実際問題、賃金(固定残業代を含む)に関し求人条件と採用条件が異なっていたという不満がたびたび出ていました。ハローワークに寄せられる申出・苦情でも、やはり賃金(固定残業代を含む)がもっとも多かったのです。中には裁判になったケースもあります。若者雇用促進法はこうした事態を受け、制定されたのでした。なお、「若者」には新卒者を含みますので、同法には新卒者に関する記述も多くあります。もちろん、若者は新卒者に限りませんし、求人広告は基本的に年齢不問が原則ですので、中途向けの求人広告を出す場合も、同様の基準を当てはめるのが適切です。

正確で明朗な記述は信頼関係構築の大前提

賃金はとてもセンシティブな部分ですので、明朗な表記が好ましいはずです。給与が高い・安いが問題ではなく、大切なのは正確で明朗か否かでしょう。その意図はなくても、結果として相手の知識不足につけこみ想定より低い収入となってしまっては、信頼関係は一気に失われます。プロ意識が高く、実際に高いパフォーマンスを発揮している人材ほど、不信感を抱き、場合によってはすぐに見切りをつけるのではないでしょうか。

反対に、提示された条件より高く自分を見積もり、その条件で雇用されたにも関わらず、不当に高い賃金を要求するのも考え物です。中には、条件が曖昧なのを承知の上で入社し、後々さまざまな要求をしてくる人もいます。ですので、求人広告で募集を公にする段階から、労使双方にとって採用の条件が明確であることが望ましいと考えられます。この意味で、若者雇用促進法は好意的に受け止めていいのではないかと思います。明確に給与を示すことは、信頼関係の構築、エンゲージメントの醸成の端緒だからです。

なお、蛇足かもしれませんが、最後に求人広告上の基本的な給与表記について説明いたします。求人広告では、「最低下限の給与」を示すことが一般的となっており、固定給の月給、年俸、時給などを明示します。よく誤解されるのが月収や年収の表記で、月給または年俸と同一のものと解釈されることが時々あります。月収は「毎月固定で支払われる賃金(月給)+時間外手当や家族手当、インセンティブなどの変動手当」で、月によって変動があり、また同じ月給でも人によって差が生じます。基本的には月給よりも高くなります。

求人広告は、媒体によって違いはあるものの、概ね月給、年俸、時給を示すのが一般的です。趣旨は月や人によって差のある月収表記では、入社後の賃金が不明になるからです。また、月収表記では、インセンティブがある場合などは、必要以上に高い表記となってしまう可能性があります。月収または年収の表記もできますが、それは月給や年俸、時給との併記である場合に限られます。

また、「最低下限」のとなっているのは、求職者からすると「少なくともいくらもらえるか」を知るのがとても重要で、記載された給与を期待して応募するからです。それを、例えば、中途入社者の平均はだいたい30万円だから月給30万円、と記載して、応募者の経験や能力を鑑みて月給25万円などとしてしまうと、トラブルになりかねません。既に見た通り、給与に関する苦情がもっとも多く、かつ、信頼関係構築の観点からも、正確で明朗な表記は重要なポイントです。

求人広告では、未経験と経験者の募集を分けて行うことが推奨されますが、給与表記が異なってくることが実は大きな理由の一つです。未経験と経験者の募集では、最低下限の給与の概念から、未経験に合わせることになります。すると、経験者にとってはどうしても安く見えますので、お勧めはされないのです(給与以外のことでも、全体の広告設計に関わりますので、併記は望ましくないのですが)。

以上、今回は給与、特に固定残業代について詳しく説明してきました。またこうした機会を設け、求人広告における適切な表記をはじめ、応募促進となる書き方も随時、ご紹介したいと考えています。

まとめ

・現在の給与表記の標準は「基本給+固定残業代(賃金と充当する時間)+割増賃金を追加で支払うことの明記」。
・固定残業代がない場合は表記は不要。
・表記の根拠は若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)。
・給与は正確に表記し、誤解を与えないようにするのが望ましい。
・不用意に誤解を与えると、応募者との信頼関係構築の妨げになる。

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