求人広告の特徴と他分野の広告の比較(求人広告研究)

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求人広告とは何なのか、どんな役割があるのかを考えた場合、私は「ターゲットにとっての会社や仕事の良さが表現され、入社することで明るい未来が想像できるもの」と捉えています。企業・商品広告をはじめ、DM(ダイレクトマーケティング)、Web広告(マーケティング)となどと比較・同一視されることも多いですが、一つの独立したメディアであることは間違いありません。今回は、求人広告と企業・商品広告の関係性やDMやWebマーケティングを比較しながら違いを明らかにして、求人広告とはどういうものなのかについて理解を深めたいと思います。

求人広告と企業・商品広告は別物

求人広告と企業・商品広告との大きな違いは効果を求めるか否かにあります。前者が即自的な効果を最大の目的の一つとしているのに対し、後者は効果をそれほど重視しません(重視しない背景には、測定が困難という現状もあります)。ただ、求人広告と企業・商品広告がはっきり別物という認識が広まったのは、実はつい最近のことのように感じます。一昔前およそ15年前は、企業・商品広告を志望していたコピーライターが求人広告を作成した関係もあり、企業・商品広告が求人広告の手本とされていました。実際に、企業・商品広告のような求人広告が称賛を受けていました。

一方で、そのころから、といいますか、そのころの企業・商品広告が効果をほとんど顧みないことへの認知も同時に広まっており、企業・商品広告などまったく参考にならないという強い主張もありました。おかしなことに、企業・商品広告など参考にするなという指導者が見本として企業・商品広告を掲げることもあり、現場は混乱していたと思います。私も一体何がいいんだと頭を悩ませた一人です。

当時から感じていたことですが、当時の求人広告のコピーライターは企業・商品広告への憧れを持っていました。その憧れを捨てきれずに求人広告と向き合っているので、羨望と反感が入り混じり、二重規範のような指導をしていたのだと推察します。要するに、求人広告のコピーライターをしながらも、企業・商品広告を作りたかったのです。

少し時代背景を紹介しますと、2000年代前半は、コピーライターは人気職でした。ただ、コピーライターなら何でもいいというのではなく、基本的には企業・商品広告のコピーライターを目指しました。1980~90年代は爆発的なブームとなり、2000年代前半は「残り香」がある状況でした。ちょうどのころを境に、コピーライターブームに影響を受けず、ただの一つの職業として求人広告のコピーライターを選んだ人たちが入ってきています。私もそうでした。

何が言いたいかと言いますと、こうした時代背景のもと、求人広告は独立したメディア・分野であるのにも関わらず、企業・商品広告の一種、はっきり言ってしまえば亜種として扱われていた感が否めません。ただ、その要因を作っているのは求人広告側なので、なんとも言えないところがあります。2000代前半以降に求人広告のコピーライターになった人たちは、二重規範のような指導を受けながらも、求人広告は一つの独立したメディアだと捉え、独自にノウハウを重ねていったと考えられます。その分、さまざまな考え方が求人広告を支配しています(そこを整理して確立させようというのがKCCの取り組みの一つです)。

DM、Web広告(マーケティング)とは単純に同一視できない

求人広告が効果を求めるという点で、DMととても似たところがあります。DMの手法は主にアメリカで確立され、日本に持ち込まれました。体系化された「人に購買行動を取らせる」ノウハウはすさまじいものがあり、一定の効果も期待できます。日本とアメリカは国の事情が異なりますが、DMは人の心理を突いてくる側面があり、やはり参考になります。実際、私自身もDMについて書かれた本を何冊も読み求人広告の制作に活かしています(企業・商品広告に関する本も何冊も読んで、活かすべきところは活かしています)。なお、DMと似たようなものにセールスライティングがあります。この二つはほとんど同じようなものと捉えてかまわないと思います。

求人広告の発展はWebメディアの発展と並行しているところがあります。ECサイトなど、Webを通じての売買が当たり前のように行われるようになる過程で、Web広告(マーケティング)という分野が新たに確立しました。Webマーケティングの大きな特徴は、データ重視です。Webマーケティングの場合は、即時にデータが取れるので、それを活かします。現在では、Webマーケティングの専門家が求人広告業界に入り、1行は何文字まで、何行目までに重要な文言を入れる、転職者の興味を引き付けるキーワードはこれ、と制作を指導するようになりました。DMの専門家が求人広告業界は入り指導した例はほとんどなかったので、影響力という意味では、Webマーケティングのほうが大きいでしょう。

ただし、ここで注意しなくてはならいのは、求人広告は、DMともWebマーケティングはやはり異なり、独立したメディア・分野であるということです。

DM、Web広告(マーケティング)との違いとは

まずDMとの違いを提示します。DMは多かれ少なかれ読み手をあおり、購買行動を促します。あおること自体は求人広告も行わないことはないですが、転職をあおぎ過ぎると企業としての品位が問われかねません。特にDMはどちらかというと不安をあおることが中心ではないでしょうか。「買わないと損ですよ」というのが典型的な手法ですが、転職で同様に「転職しないと損ですよ」をやり過ぎると、企業としての品位やブランドにマイナスの影響を及ぼす可能性が高くなります。

求人広告の役割は一見、転職者の応募までにあるようにも思えます。それならば、確かにどんな手段を使っても応募者をかき集めればいいのかもしれません。しかし、求人広告の出稿はあくまで入社、活躍、定着を目指す採用活動の一環として行われます。転職者との最初の出会いとなる求人広告だけ、とにかく応募してもらえればいい(極端な場合、応募クリック押させればそれでいい)と別の方向を向いているのはおかし話です。その意味で、とにかく買わせることを至上の目的としがちなDMと、まったく同じとは言えないのです。また、DMでは一人でも多くの人に買わせることが大事ですが、求人広告は必ずしもそうとは限りません。一人応募一人入社がベストという場合も多いのです。

Webマーケティングと異なる点でいうと、データがどこまで求人広告で使えるかが不明ということが挙げられます。特に中途向け求人は、各社で事情が違い過ぎます。データを活用するには、大量のデータが必要になります。大量のデータの中から何が必要で何を捨てるのかを考え、どう活かすのかを考えなくてはなりません。AIでいうところのチューニングです。これを求人広告の制作者が、一社一社について考えることが求められます。Webマーケティングのデータでは全体の傾向が明らかにされ、そのデータをここに活用していくのが制作者の役割と言えるでしょう。結局、データを重視するのは大切ですが、Webマーケティングの手法をそのまま当てはめようとするのは限界があるのです。

サイト全体の傾向を知ることは大切ですが、それだけでは求人広告は作成できません。なぜなら、求人企業とターゲットの情報が必要となるからです。データを重視するあまり、過去の事例を新規の求人企業に当てはめようとするケースも見られます。しかし、企業の状況は個別に異なりますので、当てはまることがまったくないとは考えづらいですが、すべてがデータ通りにいくというわけにもいきません。データをもとにある程度の仮説を立てることはできますが、それはあくまで仮説であるというバランス感覚は大事です。最終的には求人企業のことを深く理解し、その上で、ターゲット設定、広告設計が求められます。

また、サイト全体からデータを集め、ヒットする文言を抽出するケースもあります。例えば、よく制作の現場では、「エンジニア採用ではこの文言がヒットする」という情報が飛び交います。しかし、その文言が実際に原稿制作に使えるのかはその都度考えなくてはいけません。使うとなった際もどこにどう表記するのかは制作者に委ねられます。

なお、具体的にその文言が「残業なし」だった場合、それはデータを取る前から把握できることであり、かつ残業ありの会社には使えない文言です。すると、もはやそのデータに意味があるのかという問題にまでなるのですが、実はこういう現場とマーケッターのズレは以前からありました。余談ですが、「出張あり」の求人に効果が出たことから何が何でも出張ありにしたがる人がいました。データ偏重の行き過ぎた例で、こうなるとデータを活かす活かさない以前の問題ですが、この手の笑えない話は実際にあります。

DMにしろWeb広告にしろ、活用できる部分は多々あります。例えば、DMの話の構成の仕方、ストリートメイキングはとても参考になりますし、Web広告のサイト内での目の動きなどは知っておいて損はありません。ヒットされる文言も知らないより知っていたほうがいいのです。肝心なのは、求人広告を軸としながら、他分野、似た分野のメディアの利点を、どのように活かすかにかかっています。あくまで求人広告を軸にしない限りは、手がけているのは別物になってしまうでしょう。

ところが、その求人広告がなんであるかよくわからない、軸が見えない、と初めの話に戻ってしまいます。そこで、あくまで現時点ですが、求人広告とはこうであると定義していきたいと思います。

求人広告で、ターゲットに未来を描いてもらう

求人広告の目的は、言うまでもなく、人材採用です。人材を採用するための入り口、求職者との初めの接点として、求人広告は存在するのでした。一方で、人材採用とは一口にいうほど簡単には定義できない側面もあります。なぜなら、とにかく入社してさえくれればいい、という発想で、人材採用をとらえていいのかという問題になるからです。

やはり、入社から活躍、定着まで人材採用を目指したいと思います。その中で、求人広告も入社から活躍、定着までが実現できる入り口でなくてはならないのではないでしょうか。従って、求人広告はその会社に入り、仕事を続けることで、明るい未来を想像させるものになっている必要があるでしょう。

また、求人広告は求職者にとって、未知の仕事との初めての出合いを演出することも少なくありません。このため、求職者にとっての魅力が表現されていなければなりません。ただし、何を持って魅力と感じるかは、個々人で大きな差異があります。そこで、ターゲットにとって仕事の良い面が表現されているかどうかが重要なポイントです。

合わせて、ターゲットが明確であることも欠かせません。これは広告全般にも言えることですが、ターゲットがあやふやだと、訴求点もあいまいになり、誰に向かって何を言いたいのかわからない、ぼんやりとした広告になります。

まとめ

求人広告は「ターゲットにとっての会社や仕事の良さが表現され、入社することで明るい未来が想像できるもの」を現段階では定義したいと思います。企業・商品広告をはじめ、DM、Web広告など、他の分野の広告やメディアなどで、取り入れるべきところは取り入れながら、より良い求人広告の作成を目指していきたいと思います。

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