エンプロイヤー(採用)ブランディングは国内の企業では、まだそれほどメジャーではありません。自社に専門家を雇い、ブランドを打ち立てた例はごくわずかです。一方、海外では活発に行われており、特に中途採用の領域で充実しているのは、日本との大きな違いと言えるでしょう。では、国内ではどう扱っていけばいいのか。ブランドを取り巻く現状をご紹介しながら、今後の指針となる考え方を提示していきたいと思います。
ブランドとは何か
そもそもブランドと何なのでしょうか。近代マーケティングの父と言われる、アメリカのフィリップ・コトラーは次のように定義しています。
ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ
この引用だけでは非常にわかりづらいのですが、要するに「こんな商品、サービス、企業活動をしている企業だよね」と、顧客にすぐにピンと来てもらえることでしょう。エンプロイヤーブランディングであれば、「こんな採用をして、こんな働き方や仕事できて、こんな考えで、こんな事業をしている企業だよね」と求職者と社員にすぐにピンと来てもらえることとすればわかりやすいでしょうか。「求職者と自社社員に向けて行われるブランディング」と言い換えることもできます。企業ブランドが企業全体のイメージを包括するのに対し、採用ブランドは採用や就業のことに限定されます(採用ブランドと区別をつけ話を分かりやすくするため、ここでは一般的なブランドを「企業ブランド」と呼ぶことにします)。
採用も企業活動の一部ですので、両者を切り離すことはできません。エンプロイヤーブランディングは企業ブランドの一部と言うことができますし、反対に、企業ブランドが採用ブランドに直接的な影響を及ぼしていることも明確です。やや乱暴な言い方ですが、BtoCで有名な企業は募集をかけるとすぐに人が集まります。一方で、BtoBですと優良企業にも関わらずいまいち人が集まりにくいということがあります。新卒採用でこの傾向は顕著で、中途でも新卒ほどでもないにしろ、同じようなことは起こっています。つまり、企業の知名度・イメージは採用力に直結しているのです。
以上のことから、自社が求職者を含む一般顧客に無名であればあるほど採用ブランドは必要になってくることがわかります。企業ブランドは不要でも、これからの人手不足の時代には、エンプロイヤーブランディングは欠かせないものになると言うこともできるでしょう。
ブランディングには一貫性が大事
ブランドを確立させる上で重要なのが、借り物ではないメッセージを持つことです。採用を促進するために後付けで作ったのでは、見破られてしまいます。仮にうまいこと入社させたとしても、長続きしないことは容易に想像つくはずです。
このため、人材や仕事、事業に対する考え方などを真摯に見つめ直し、採用ブランドを明確にしておくことは求められます。メッセージは綺麗な言葉にまとめる必要はないでしょう。「仕事を楽しみながら成長できる」「少数精鋭の家族経営」「社員の幸せが第一」「世界をアッと驚かせる」という程度で十分だと思います。当たり前のことですが、「私たちはこうである」ということを自分たち自身が理解していないとブランドも何もありません。借り物でないメッセージとはつまり、自分たちが納得した自分たちなりのメッセージであると言えるでしょう。
また、メッセージには一貫性がとても大切です。ブレブレで毎回、言っていることが変わっていると、認知が深まりません。それどころか、逆に「前と言っていることが違う。怪しい」と思われてしまうこともあります。求人広告など企業から発するメッセージは、しっかりと軸を持つこと、そこから逸脱しないことが重要になってきます。
普段の採用活動がブランディングそのもの
ブランドは一度に浸透するものでありません。一定の時間をかけて、転職市場に浸透させていく必要があります。では、どのように浸透させていくのかですが、これは普段の採用活動で積み上げていくことに尽きるでしょう。求人広告やホームページをはじめ、説明会、面接など、普段行っている採用活動を通じて認知を積み上げていくのです。
例えば、求人広告を出稿する場合、たとえそれが小さな広告または無料枠だとしても疎かにしてはいけません。なぜなら、見ている人がいるからです。特にdodaやリクナビなど有料の求人媒体は会員数が多く、影響力は大きなものがあります。誰かが目にしていると考え、丁寧な作り込みが必要です。また、求人広告を見た求職者は、合わせて企業HPを確認するのが当たり前の行動になってきています。求人広告を出す際、もしHPを持っていないのなら、できるだけ早めにHPを作っておくことは求められるでしょう。採用を積極的に行っているBtoB企業の中には、「採用のためだけにHPを作っている」と断言する企業もあります。求職者の心理として求人広告よりHPのほうが信頼性が高いと考える傾向があり、HPは採用活動の欠かせないツールとなっているのです。
ただし、求人広告とHPと言っていることがかみ合っていないと逆効果にもなってしまいます。例えば、求人広告では社員の幸せが第一、と言っているのに、HPはどこからどう読んでも利益優先としか思えなかったり、世界を驚かせると言っているのに、世界戦略のことが一言も触れていなかったりと、こうしたことはなさそうであることです。場合によっては、HPの更新も必要になるでしょう。
最後に、最近では、リファラル採用(社員の紹介による採用)も脚光を浴びてきています。このため、日常の業務、会社のあり方そのものが採用ブランディングに直結していることも、ぜひ覚えておいてください。
まとめ
・エンプロイヤー(採用)ブランディングとは、求職者や自社社員に向けて行われるブランディングである。
・ブランディングのために、自分たちなりの、求職者や自社社員に向けてのメッセージは必要になる。
・通常の採用活動が採用ブランディングにつながる。
・ブランドは一度には浸透しない。積み重ねていくことが大事。